劇作家・演出家 平田オリザさんのラジオ番組(ラジオ関西『平田オリザの舞台は但馬』)に、豊岡杞柳細工作家の山本香織さんが出演。職人を志したきっかけや豊岡杞柳細工の魅力、今後の展望について語った。
「豊岡杞柳細工(とよおかきりゅうざいく)」は日本の“伝統的工芸品”である、柳のかご細工だ。伝統的工芸品とは、伝統工芸品のなかでも1974(昭和49)年に制定された「伝統的工芸品産業の振興に関する法律」に基き、経済産業大臣に認定された工芸品のみを指す。そんな伝統的工芸品のひとつである「豊岡杞柳細工」はいま、新たなデザインを取り入れたファッショナブルな作品が増えていることもあり、再び注目を集めている。
山本さんは兵庫県豊岡市生まれ。豊岡市はカバンの関連会社が180社以上もある一大生産地だが、幼いころはあまり意識したことがなかったという。結婚・出産を経て子どもの手が離れたある日、友人の雑貨店で地元の伝統工芸「豊岡杞柳細工」に出会った。
「杞柳(きりゅう)」とは、コリヤナギのこと。円山川の豊かな土壌に自生するコリヤナギでかごを編んだことに始まり、その歴史は1200年前にまでさかのぼる。豊岡杞柳細工のバッグは、丁寧に編み込まれたコリヤナギが生み出す上品なツヤとしなやかさが特徴だ。山本さんは、その美しい「編み」に心ひかれたという。
「迷いはなかった」という山本さんは後継者育成教室があることを知り、すぐさま門をたたいた。教室には40人程度が在籍しており、年齢や目的はさまざま。趣味で通う人もいたが、山本さんは「職人」としての道を志し腕を磨いてきた。
9年目を迎えた現在、伝統工芸士の受験資格を取得するまであと3年だが、すでに作家としてブランドとのコラボレーションや、「OEM(Original Equipment Manufacturing(Manufacturer):他社ブランドの製品を製造すること」での受注など、多忙な生活を送っている。
豊岡杞柳細工はかつて全国で知られていたものの、近年は作り手の減少によって存続が危ぶまれている。目下の悩みは、コリヤナギの栽培。豊岡発の杞柳細工が全国に流通し弁当箱や収納箱として家庭でも使われるようになった背景にあるのは、大量生産を可能にした分業制だ。柳を育てる人、収穫した柳を材料に加工する人、柳を編む人、組み立てる人……。細かく分業されていたのだが、プラスチックやビニール素材の普及により生産数は減少。そのあおりを受け、今では地元豊岡ですらコリヤナギを栽培する農家はなくなってしまった。
山本さんをはじめとする職人らは現在、材料となるコリヤナギの栽培から収穫、素材として整えてから編みあげるまでの作業を、すべて一貫して自らの手で行っている。編むだけなら2日で済むが、材料を作るのに2日、育てるには1年以上を要する。コリヤナギは2〜3メートルほどに成長したものを刈りとり、皮剥ぎ(かわはぎ:皮をむく作業)ができる春まで枯らさないよう、水気を吸わせながら束ねて立てて保管する必要がある。