この夏の後半、じっくりと聴いていたツクツクボウシの鳴き声。なぜじっくり聴いていたかというと、ツクツクボウシはほかのセミと比べて、とても変化に富んだ構成で鳴いているから。
まず最初は「ジーーー」と鳴き始め、ゆっくりと「ツクツクボーシ」。そこから「ツクツクボーシ」「ツクツクボーシ」とだんだん速く鳴きすすめていき、最高潮に達したと思ったら、「ツクツクディーオ」と急に変化。そして締めくくるように、再び「ジーーー」。
その構成は、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビ、Cメロ、アウトロと続いているよう。まるで、いい音楽をまるまる1曲聴いたときのような満足感を覚える鳴き方なんです。
プロの場合はどう感じるのでしょうか? さまざまなジャンルのプロミュージシャンや音楽の専門家に話を聞いてみました。
【ロックミュージシャン】 最初の「ジーーー」がイントロで、「ツクツクボーシ」とゆっくり鳴き始めるところがAメロ。スピードアップした「ツクツクボーシ」の部分がBメロで、急にアクションが加わった「ツクツクディーオ」のところがサビに感じるなあ……。だから、最後の「ジーーー」がアウトロやな。
【ヒップホップ(ラッパー)】 ヒップホップは同じフレーズを何度も繰り返す作り方(ワンループ)をしている楽曲が多いんですけど、「ツクツクボーシ」を何度も繰り返すという行為は究極のワンループやと思います! ですから、ツクツクボウシの鳴き声はラップそのものです。
【ジャズ奏者】 私、録音したツクツクボウシの鳴き声をスロー再生して、細かい拍子であらわしてみたんですよ。「ツクツクツク」が6拍子、「ボウーーーシ」が7拍子。合計13拍子の超変拍子だったんです。ツクツクボウシはまるで、現代ジャズのアヴィシャイ・コーエン(イスラエル出身のジャズミュージシャン)ですね。
【クラシック楽団】 最初の「ジーーー」がすべてですね。ベートーヴェンの『運命』は、出だしの音のない休符のあとに「ジャジャジャジャーン」と来るわけですよ。つまり、「ツクツクボーシ」のための「ジーーー」という鳴き声こそがすべてを握っていると感じますね。