3月3日は「ひな祭り」。平安時代に中国から伝わってきた「上巳の節句」という災厄をはらう行事を原型とし、女児の幸せや健康を祈る「桃の節句」に転じたのち定着したといわれています。この華やかな伝統行事のアイコンといえば「雛人形」。職人が拵えたものを段飾りにする家庭もあれば、最近ではフェルトや折り紙などをもちいたお手製の雛人形を飾る家庭も増えてきました。
さて、“ハンドメイド雛人形”の元祖といえるものが、静岡県東伊豆町の稲取地区に存在します。「雛のつるし飾り」というものですが、知っていますか? 普及活動をおこなう稲取温泉旅館協同組合に、どんなものなのか詳しく教えてもらいました。
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稲取地区で生まれ、独自に受け継がれる「雛のつるし飾り」とは、お雛さまが鎮座する段の両脇に布で作ったひな人形を紐で吊り下げる形で飾るというもの。節句に合わせて家庭で飾られるほか、東伊豆町の文化公園内にある施設「雛の館」では常設展示されるなど非常に親しまれています。
「江戸時代末期の頃、雛人形は高価なものでした。一般家庭ではなかなか手に入れられないこともあり、代用として『雛のつるし飾り』を手作りしたことが発祥だといわれています」(稲取温泉旅館協同組合)
当時に比べると雛人形が入手しやすい時代となった現在では、壇の両脇に飾るという形で定着しています。「雛のつるし飾りが、現在まで文化として現代まで継承されているということだと思います」と担当者。
「雛人形と同じように女の子の健康や良縁を願ったモチーフを縫い付けます。例えば『神様のお使いで、呪力を持ち女の子を守ってくれる』ということで『うさぎ』、『花のように可愛らしく成長して』という意味をこめて『花』、『厄が去る』にちなんで『サル』などがあります」(稲取温泉旅館協同組合)
その数は約40種類あり、枕や柿など「これが雛祭りのモチーフなの?」というようなものもあります。ちなみに「枕=寝る子は育つ」「柿=長寿の木・厄払い」と、一風変わったアイテムにもそれぞれにきちんとした意味が込められているのだとか。
つるし飾りをおこなう地域は他にもありますが、手縫いの和裁細工で作ったものを吊り下げて飾る風習は稲取地区独自とのこと。そのため、「新しいモチーフなどは加えず、40種類のモチーフだけで作る」といったルールを守っているそうです。
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雛人形を買えずとも「女児の成長を願いたい」という家族や親戚・近所の人々が、着物のお古や切れ端を持ち寄り手作りしたことから始まったつるし飾り。時代は変われど、“やさしい思い”が詰まった文化は変わることなく人々の中に息づいています。
(取材・文=つちだ四郎)
◆稲取温泉旅館協同組合
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