新年度が始まりました。新たな職場・学校で新生活がスタートする人はもちろん、先輩や上司として新入生・新社会人を迎えるこの時期は新たな人間関係を築くチャンスでもあります。そこで改めて見直したいのが“正しい言葉使い”。健康食品や化粧品を取り扱う「株式会社グラフィコ」が新入社員に向けて行った意識調査によると、新社会人が心配だと感じているビジネスマナーの1位が「敬語・言葉使い」だそうです。そんな中でも筆者が気になっているのが、「全然良い」や「全然できる」などといった“全然”の使い方です。
主に否定として使われる“全然”に肯定や可能を表す動詞・形容詞を組み合わせることについて、「大丈夫」「ダメ」という両極の意見を聞きますが結局どちらなのでしょうか? 文化庁国語課の国語調査官・武田康宏さんに話を聞きました。
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時代によって言葉の使い方は変わっていくなか、「全然」の使い方について武田さんは「間違いだとは言えない」と言います。
「多くの辞書は『全然』の使い方について、基本的には否定や打ち消しの表現と組み合わせて用いると説明していましたが、新たに改訂された際には否定を伴わない使い方にも言及されています。また、言葉は時代と一緒に変わっていくものであり、現在の『全然+肯定』の使い方も若者言葉ではなく広く使われているものとなっています」(武田さん)
例えば「敷居が高い」という言葉は「高級なために入りにくい」という意味の誤用だと考えられていますが、広辞苑では改訂された際にこの意味でもあることが追加されています。
同様に「全然」の使い方も時代によって変化してきたのですが、武田さんによると「全然+肯定」の表現は「許されやすかった時期」と「許されにくかった時期」が繰り返されてきたそうです。
「『全然ダメだ』のような打消しの表現と組み合わせる使い方は、戦後に定着したものだという研究もあります。かつて、一部の文豪たちが否定的表現を伴わず“全然”を用いた作品も存在します」(武田さん)
実際、夏目漱石の『趣味の遺伝』(1906年・明治39年初出)では「全然同格である」、太宰治の『鷗(かもめ)』(1940年・昭和15年初出)には「全然新しい」という表現が使われています。このことから、「全然+肯定」は「誤用→正用」とストレートに変わっていったのではなく、誤用だと考えられた時期もあれば正用だと考えられた時期もあり、それが繰り返されてきたことがわかります。
その上で、武田さんは「誤りとまでは言えないですが、必ずしも誤用ではないとも言い切れません。それを踏まえた上で、言葉で大切なのは『全然良い』のような表現を、話す相手がどう感じるかだと思います」と話してくれました。
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「全然+肯定」は、使っても良いのか悪いのかはっきりとした答えは無いようです。武田さんいわく現在は「良い」がやや優勢とのこと。ですが丁寧な言葉使いを目指すのならば、あえて使用する必要はなさそうです。