甲南医療センター(神戸市東灘区・旧甲南病院)の医師、高島晨伍(しんご)さん(当時26歳)が長時間労働を苦に2022年に自殺した問題で、遺族が2日、同センターの院長と運営法人に対し、計約2億3千万円の損害賠償を求めた裁判の第1回口頭弁論が22日、大阪地裁で開かれ、医療センター側は業務と自殺との因果関係を否定し、請求棄却を求めた。
晨伍さんの母親・淳子さんは「医師を守れない病院に、患者を救う資格はない」と訴えている。
そしてこの日、法廷で「晨伍は(当時、所属していた)消化器内科に同期もいない環境で、病院側から指示された仕事を孤独にこなしていた。時間について調節できないほど追い詰められていた」などと述べた。
そして、「医師の労働環境改善のために、晨伍が自らの命を犠牲にした。この裁判が節目となることを願う」と訴えかけた。
高島さんは大学卒業後、2020年4月から研修医として同センターに勤務していた。2022年4月に消化器内科の専攻医となり、研修を受けながら診療をしていたが、同年5月17日、自宅で自ら命を絶った。
訴状では、「センター側が(高島さんの)100日連続勤務や、1か月あたりの時間外労働が236時間という過重労働を認識していながら、業務を軽減するなどの措置をとらなかった」と主張している。
一方、センター側は医師の勤務時間について、高度な専門性を取得するための「自己研さん」や睡眠時間なども含まれているとして、「全てが労働時間ではない」としている。
その上で、「高島さんの自主性を考慮した職場環境だった。過重な労働を課していたという認識はない」と主張している。
この裁判では、業務と自主的な自己研鑽(けんさん)、それぞれに対する認識が主な争点となっている。
西宮労働基準監督署(兵庫県西宮市)は、高島さんの自殺は長時間労働が原因だったとして、2023年6月に労災認定した。
認定によると、亡くなる直前1か月間の時間外労働は、国の精神障害の労災認定基準(160時間)を上回る207時間50分だったという。
さらに同年12月、労使協定で定められた上限(1か月あたり95時間)を超える時間外労働をさせたとして、運営法人と院長らが労働基準法違反容疑で書類送検された。