中国で生まれた武術で、スポーツ競技としても行われている武術太極拳の元日本代表選手が、けがで苦しみつつトップを極めた現役時代を振り返りました。
このたび、ラジオ番組にゲスト出演したのは、武術太極拳の元日本代表選手・別当響さんです。
武術太極拳とは、中国で生まれた戦いの技術をスポーツにしたもので、演武を評価し、採点基準をもとに点数を競います。メイン種目は「太極拳(たいきょくけん)」と、「長拳(ちょうけん)」、「南拳(なんけん)」の3種目で、別当さんの専門は、カンフーのような動きをする「長拳」。武術の要素に加え、アクロバットの要素など「いろんなことが求められる競技」だといいます。
5歳のときに武術太極拳をはじめた別当さんは、18歳のときに初めて日本代表に選出され、アジアジュニア武術太極拳選手権大会に出場。2種目で金メダルを獲得するも、3種目の演武中にひざの前十字靭帯を断裂。手術・入院・リハビリ期間を経て、シニア選手として復帰後、2016年からは再び日本代表選手に選出されました。
しかし、2018年、武術太極拳の最高峰であるアジア競技大会の直前にひざの半月板を損傷。大会にはなんとか出場し5位に入賞するも、帰国後に半月板を再断裂してしまい、すぐに手術を行うことに。
「完治には1年かかる」と言われていましたが、別当さんは半年で完全復活。けがを乗り越え、2019年に行われた第36回全日本武術太極拳選手権大会では、自選難度競技男子長拳部門で1位に輝きました。
2023年に引退するまでの間、けがの影響で計3回の手術を経験した別当さん。大きなけがからの復活は簡単なことではありませんでしたが、「辞める」という選択肢は出てこなかったといいます。
その理由について、「けがをした瞬間はちょっとショックですけど、“治ったあと次にどうなるか”しか考えていなかった」という別当さん。「落ち込んでいる時間がもったいない」と感じ、「どうやって効率的に復活するかを考えることに自然と意識が向いていった」のだといいます。
そんな別当さんが引退を決意したきっかけは、2022年に行われる予定だった「アジア競技大会」でした。代表に内定していた別当さんは、「この大会をラストにしよう」と決めていたそう。しかし、コロナによる延期が重なった結果、代表の再選考をすることになり、その期間にけがをしてしまいます。
再選考まで半年しかない状況でも「あきらめる選択肢がどうしてもできなかった」と、持ち前のポジティブ精神を発揮し、4か月で競技をできる状態まで回復。「たぶん無理はしたとは思うんですが、経過も良く、リハビリも必死でやったので、やっとの思いでなんとか達成できた感じです」と、当時を回顧しました。
しかし、結果はついてこず、代表内定は白紙に。何度も大きなけがを乗り越え、日本代表として国際大会に出場してきた別当さんでしたが、競技のクオリティーも年々上がっていくなかで後輩たちの追い上げもあり、2023年の全日本選手権を最後に選手を引退することを決意しました。