去る10月1日に東海道新幹線が開業60周年を迎えました。開業以前、大阪~東京間の移動は6時間半もかかっていたそうですが、開業当時に4時間まで短縮。現在は、のぞみに乗れば約2時間30分で移動することが可能に。在来線はもとより高速バスをはじめとする車移動に比べて揺れも少なく、スピーディーに目的にたどり着くことができる快適さが大きな魅力の新幹線移動。
ですが一方で、「座っているだけなのにどうも疲れてしまう」という印象が筆者にはあります。一体なぜなのでしょうか。新幹線移動において「疲れる理由」や「疲れないための対策」など、ひさき鍼灸整骨院(兵庫県加古川市)の久木崇広院長に聞きました。
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同院には「新幹線に乗ってからしばらく疲れが取れない」などの症状で来院される人が実際にいるとのこと。久木院長は疲れの大きな理由について、「新幹線に限らず乗り物で体に負荷をかける要因は、車両の揺れによって起こる『全身振動』である」と説明。比較的揺れの少ない新幹線でも体は小刻みに揺れています。それにより、ある「4つの影響」が体にもたらされ疲れに繋がると言います。
【影響その1】振動による筋肉の傷み
「アメリカにおける振動の研究では、乗り物による振動を体に与えると体を支える筋肉が疲労し、スムーズに体を動かせなくなるという報告がされています」(久木院長)
【影響その2】振動による水分のアンバランス
「振動によって体の水分が搾り出され、体の水分配置バランスが悪くなります。いわゆる“むくみ”です。これにより体の老廃物がうまく排出できず、疲労が抜けにくい状態となります」(久木院長)
【影響その3】振動によって引き起こされる平衡感覚のズレ
「平衡感覚はおもに耳や目で感じています。電車に乗車中の場合、目は揺れをさほど感じておらず、その情報を脳に送ります。ですが耳は揺れを感じており、目からの情報を補正するよう脳に情報を送ります。乗車しているあいだはこのギャップのすり合わせが続くため、脳が疲労してしまうのです」(久木院長)
【影響その4】断続的な振動は自律神経をフル稼働させる
「走行中の振動する車内において、体のバランスを保つためには筋肉や血管などの微調整が必要となり、それを自律神経が担います。長時間、自律神経を稼働させ続けるということは体にとってイレギュラーであり、『体を良い状態に保つ』という本来の働きができず疲労が発生します」(久木院長)
「ただ座っているだけ」かと思いきや、実は疲労する要因が幾つもあった新幹線移動。対処法を久木院長に教えてもらいました。
◾︎立って歩く
「歩くことで血流を良くして疲労した筋肉に栄養を補給し、疲労物質を流すことができます」(久木院長)
とはいえ動いている新幹線内で歩き回ることは得策ではないとした上で、久木院長は座ったままでできる別の対策法も提示。
◾︎座席を倒しシートに頭や体を密着させ安定させ、しばらく目をとじる
「振動によって起こる耳や目の平衡感覚のズレが緩和し、脳や自律神経への負担が減って疲労しにくくなります」(久木院長)
◾︎こまめな深呼吸と水分補給
「振動で体はエネルギーを消費しています。それを補給することは疲労回避に有効です」(久木院長)
また、久木院長は注意すべきポイントについても言及。
◾︎新幹線内の睡眠について
「新幹線内で眠るなら20分程度がおすすめです。程よい仮眠は脳や体をリフレッシュできるとされていますが、寝すぎてしまうのは良くない。体内時計に狂いが生じ、睡眠のリズムが崩れます。そうなると深く眠ることができず、“睡眠の質の低下”を引き起こすことも。そのような状態では、帰宅し睡眠時間をしっかり確保しても脳や筋肉は完全に回復できません。そのため翌日に疲れを持ち越す……という可能性が高まります。また電車での長時間の“座り寝”は、首や腰などがねじれた姿勢になり体のゆがみが発生。これも脳や体が回復しずらい状態に陥る原因のひとつです」(久木院長)
◾︎新幹線移動中の飲酒
「新幹線内での楽しみのひとつだと思いますが、注意が必要です。基本的にアルコールを含む飲料は疲労回復を遅らせます。車中でお酒を楽しむなら、飲んだアルコールの量以上のミネラルウォーターやお茶でこまめに水分補給をしてください。体内アルコール濃度を薄めて吸収スピードを遅くすることで、疲労増幅の緩和が期待できます。ですが、完全に疲労回避できる訳ではありません。翌日の事を考えるなら飲酒しない方が無難ですね」(久木院長)
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「対策を施してもなかなか疲労が取れなければ、歪みが起こり回復しにくい体の状態になっている可能性もある」と久木院長。そのような場合は、専門家に体をメンテナンスしてもらうことを検討した方がいいかもしれません。
(取材・文=宮田智也)