平清盛が築いた港・兵庫津の地に立つ、神戸市兵庫区の蛭子神社。“柳原のえべっさん”として知られ、地域の人々に長く親しまれてきた。阪神・淡路大震災やコロナ禍といった困難の中でも、毎年の「十日えびす大祭」を絶やすことなく続けてきた宮司の思いと、地域に受け継がれる祈りのかたちをたどる。
古くからの神社や寺が多く立ち並ぶ兵庫区。この地域も、1995(平成7)年の阪神・淡路大震災では大きな被害を受けた。宮司の井上優さんは、当時を振り返り、「まさかこの街で、こんなことが起きるとは思いませんでした」と話す。
毎年1月9日から11日にかけて行われる「十日えびす大祭」は、商売繁盛や家内安全、学業成就などを願う多くの人々でにぎわう。震災翌年の1996(平成8)年、開催をためらう声もあったが、「信仰が厚い方が多く、こういうときだからこそお祭りを行い、神主としての務めを果たさなければと感じました」と井上さんは語る。
2021(令和3)年の大祭では、感染対策のため露店の出店を見合わせるなど例年とは異なる形となったが、それでも多くの参拝者が訪れたという。「大変な時期でも、人が集い、福を願う場を持てたことの意味を感じました」と井上さん。
大祭の宵宮(1月9日)には、神輿に載せたマグロを町内で巡行し、本殿へ奉納する神事が行われる。この風習は、社殿を新たにした際に、神戸市中央卸売市場の関係者が「おめでたい節目にマグロを奉納しては」と提案したのが始まりで、以来14年ほど続く恒例行事となっている。
さらに、南あわじ市の淡路人形座による人形浄瑠璃の奉納も行われている。戎舞(えびすまい)を通じて家内安全や商売繁盛を願う演目で、参拝者に文化的な彩りを添えている。
井上さんは「海外から訪れる人も増えています。お祭りを通じて日本の文化を感じてもらえるのはうれしいことです」と話す。
港町の歴史とともに歩んできた蛭子神社は、変化の時代の中でも、人と人とをつなぐ場として息づいている。
※ラジオ関西『三上公也の朝は恋人』より





