「泥仕合」←由来は歌舞伎? そもそもの意味や一般的に使われるようになった理由とは 識者に聞く

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 政争や醜い言い争いを表す言葉のひとつ「泥仕合」。実は歌舞伎の演出がルーツであることをご存知でしょうか? 舞台上の言葉がなぜ日常語として使われるようになったのか、東京女子大学の光延真哉教授に聞きました。

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●「泥まみれ」は歌舞伎の華

 歌舞伎には、役者が本物の泥(あるいは泥に見せたもの)にまみれて戦う「泥場」という演出があります。泥場が観られる有名な演目のひとつ『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』では、蒸し暑い夏の夜に義父を殺めることになった主人公・団七が全身泥だらけになって立ち回るシーンが。古くは1749年(寛延2年)に江戸の市村座で上演された記録が残っています。江戸時代の人々にとって、この「泥の中での死闘」は強烈なインパクトを与えるエンターテインメントだったようです。

●一般的に使われるようになった理由

 光延教授によると、大正デモクラシー期などの政治状況において互いの欠点をあげつらう様子を説明する際に、歌舞伎の泥場演出から転じた言葉である「泥仕合」がフィットしており、人々の共通認識に訴えかけやすかったから……とのこと。この事実からも分かるように、泥仕合という言葉が一般に使われるようになったのは比較的近代になってからのことでした。

●「水仕合」もある

 泥のほかに、水を使った立ち回りを歌舞伎では「水仕合」と呼びます。最近では水仕合よりも「本水」という言い方をしており、古典作品では『鯉つかみ』、新作歌舞伎だと『風の谷のナウシカ』で行われます。しかしながら、一般的に水仕合という言葉は使われていません。その理由には、“泥のイメージ”が関係しているのかもしれません。水と違い一度付くとなかなか落ちない泥は、「互いを汚し合う」というネガティブな争いの比喩としてより適していたのだと推測されます。

●歌舞伎がルーツの言葉はいろいろある

【差し金】黒衣が蝶などを操る棒のことで、“裏で操る”という意味から来ています。

【二枚目・三枚目】劇場の看板の並び順。2枚目は美男子、3枚目はひょうきんな役者を指します。現代では、俳優などを指すときに使われます。

【十八番】市川家が得意とした演目の『歌舞伎十八番」が由来。最も得意な芸や技、またはその人がよくする動作や口癖を指す言葉です。

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 江戸~明治・大正にかけ、庶民にとって歌舞伎は今でいう映画やドラマのような「共通の教養」でした。そのため、舞台上の情景がそのまま世の中を言い表す言葉として定着していったとか。次にニュースで「泥仕合」という言葉を聞いたときは、こうした豆知識を念頭に歌舞伎を見てみると新しいおもしろさを感じることができるかもしれません。

(取材・文=堀田将生)

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