西日本唯一、スマスイでシャチのショー! 神戸市民が望む地域の水族館の姿は…

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 神戸市立須磨海浜水族園(以下、スマスイ)と海浜公園を一体的に再整備する事業の優先交渉権者(以下、優先事業者)が決まった。株式会社サンケイビル(本社:東京都)を代表とする7社の共同事業体だ。

 同園は1957年に神戸市立須磨水族館として開業。87年には特徴的な三角屋根の本館を中心とする姿に全面改装し、名称を現在の須磨海浜水族園として多くの市民に愛されてきた。しかし30年以上が経過し、老朽化のために建て替えが決定。これを機に神戸市は、水族館施設と周辺の宿泊施設や公園を含めた一体的な再整備を民間の事業者に委ねることとし、公募を行った。事業提案したのは2グループ。優先事業者が選出される一方で、次点となったのは現在の須磨海浜水族園を運営する指定管理業者を含む企業グループだ。

2024年に開業予定の新水族館建設イメージ(神戸市発表資料)
2024年に開業予定の新水族館建設イメージ(神戸市発表資料)

 優先事業者が提示したプランによると新しい水族館は西日本最大級の規模となり、来場者は現在の年間約100万人を倍増する200万人(開館初年度は250万人)を目指すという。

 その目玉はなんといってもシャチのショーだ。優先事業者には千葉県の鴨川シーワールドを運営する会社が含まれている。現在国内ではその鴨川シーワールドと愛知県の名古屋港水族館の2か所であわせて7頭のシャチが飼育されているが、西日本では須磨だけとなるため、神戸市は西日本全域からの誘客を期待する。シャチを新規に購入するのか、鴨川シーワルドから連れてくるのかは明らかになっていない。非常に派手なプランだが、すでにSNS上では「シャチのショーを観るのが楽しみ」「家族で気軽に訪れることができる今のような水族館がいい」という賛否の声が上がっている。また、世界のトレンドではシャチをはじめとする海洋高等生物のショーを見せる施設は減少傾向にあり、アメリカではシャチが飼育員を襲う死亡事故が連発したことや環境保護団体からの圧力なども影響し、2015年にはシャチのショーを中止している。ここでショーの善悪を述べることはしないが、日本でも反対の声があることは確かだ。

西日本唯一のシャチショーを実施する「オルカスタジアム」のイメージ(神戸市発表資料)
西日本唯一のシャチショーを実施する「オルカスタジアム」のイメージ(神戸市発表資料)
2019年3月に42歳となり、世界最高齢記録を更新中のロングノーズガー(写真提供:須磨海浜水族園)
2019年3月に42歳となり、世界最高齢記録を更新中のロングノーズガー(写真提供:須磨海浜水族園)

 一方、次点となった現在のスマスイは、42歳という世界最高齢記録を更新中のロングノーズガーをはじめとする貴重な淡水魚など、600種13000点に及ぶ生物の飼育実績は十分で、ほかにも傷ついたウミガメを救う人工ヒレの開発など学術研究にも盛んに取り組んでいる。

 しかしながら公表されたコンペの結果を見ると、一体的な再整備のうち、水族館施設に対する評価は配点110点に対し、優先事業者85.8点、次点者66.2点。老朽化が進む建物ながら、ソフトに工夫を重ねることで来園者の下降曲線を食い止め、長年に渡って市民に愛され続けたスマスイが大差で下回る評価を受けた提案とは一体どのような内容だったのかを知りたいものであるが、神戸市は次点者の提案内容を公表していない。

 新水族館の再整備でシャチのショーとともに注目を浴びているのが、その入場料だ。現在のスマスイは大人1300円、小中学生500円。それに対し、新水族館は大人3100円、小中学生1800円。シャチの飼育のみが入場料決定の要因ではないだろうが、金額面だけで言うと、何度も気軽に訪れることができる地域の社会教育施設として適切な金額とは言いがたい。しかし優先事業者決定後の神戸市会経済港湾委員会では、経済観光局の幹部が答弁に立ち「施設規模からすると妥当な金額だ」と繰り返した。

 オープンから60年以上の歴史を刻む市民の水族館を廃止するにあたり、シャチが跳ぶ派手な施設で観光客の呼び込みに力を入れるべきか、はたまた現在の系譜を継ぐ水族園で人々の暮らしと教育の中にあるべきか、市民に議論の余地がないことは問題だ。総事業費370億円、2024年3月開業予定。民設民営の施設になるとはいえ、土地は引き続き神戸市のものであり、神戸市民の財産をどのように活用するのか、優先事業者が決定事業者となる前に開かれた議論を期待したい。

夕陽に染まるスマスイの三角屋根はあと数年で姿を消す(写真提供:「映画スマスイ」製作委員会)
夕陽に染まるスマスイの三角屋根はあと数年で姿を消す(写真提供:「映画スマスイ」製作委員会)