PKのジャッジが下った瞬間、すぐにボールを取って、ペナルティスポットに向かったのは、ビジャ。スタジアム全体がビジャを見つめ、カメラマンもゴールそばに集結。プレッシャーのかかる場面ではあったが、百戦錬磨、世界屈指のゴレアドールは、実に冷静だった。右足を振り抜くと、相手GKの手の届かない左スミに、グラウンダーの鋭いボールを突き刺した。
この試合、1番の大歓声に包まれたなか、ビジャはゴール後、一目散にピッチサイドシートで観戦していたファミリーのもとへ。家族、そして、イレブンと大いにこのゴールを喜び合った。ビジャは83分、万雷の拍手に送られ、ピッチから退いた。
ビジャのJ有終の美を、さらに盛り上げたのが、ポドルスキだ。ビジャのゴールから3分後の78分には、ビジャのシュートのリフレクションをヘディングで押し込めば、85分には、ビジャに代わって入った田中順也とのワンツーから左足インサイドで右スミに鋭くシュートを突き刺し、自身、来日後初のハットトリックを達成。増山朝陽と交代する90分まで、今季最高といえるパフォーマンスを見せた、クリムゾンレッドの10番が、ビジャとともに、この試合の主役に。チームも最後まで集中を切らすことなく、4-1で勝ち切り、メモリアルな試合を締めくくった。
試合後、「ビジャ選手のセレモニーもあるということで、勝利で飾りたいというのもありましたし、たくさん得点を取って、いい雰囲気で終えることができた」と述べたのは、神戸のトルステン・フィンク監督。ただし、「試合内容に関しては、1-1にされた状況や、後半に入ってから頭のシーンとか、ちょっと苦しんでいたところもあり、全体的には4点も取って結果オーライという感じではありましたが、完璧に私がハッピーかといえば、そうではない。まだチームとして自分たちができる部分は(まだ)あると思うので、そこは今後、修正、改善しないといけない」と勝って兜の緒を締めていた指揮官は、「今日で終わったわけではないですし、まだ2試合、勝ちたい試合であり、チームにとってはすごく大きな、大事な大会が残っているというのがあり、そこに全力を注ぎたい」とコメント。神戸悲願の初タイトル獲得へ、チーム一体となって、視線はすでに先を見据えていた。
今季は豪華な陣容で臨みながら、J1第6節から第12節にかけて7連敗を喫したり、ファン・マヌエル・リージョ、吉田孝行、フィンクと、度重なる監督交代も行われるなど、厳しいシーズンを過ごした、神戸。それでも、ベルギー代表DFフェルマーレンや元日本代表DF酒井高徳といった実力者が加入すると、第23節浦和レッズ戦以降は8勝4敗と盛り返し、一桁順位に。総得点61は、優勝した横浜F・マリノス(68)に次ぐ数字を残すことができた。「今はいい方向に進んでいる」とフィンク監督も自信をのぞかせるように、終盤戦にかけて神戸の攻撃力あるサッカーに磨きがかかってきたなか、そのスタイルを来季にいかすためにも、天皇杯では必ずタイトルを勝ちとりたい。それが、クラブの掲げたスローガン「the No.1 Club in Asia ~ 一致団結 ~」につながっていくはずだ。