国宝・姫路城からほど近く、歴史情緒あふれる街並みが今なお残る野里地区。その住宅街の中に、スペシャルティコーヒー専門店「NAKAZAKI COFFEE ROASTER(ナカザキコーヒーロースター)」がある。看板が上がっている以外、見た目は小さな古民家そのもの。実は一度、前を通り過ぎてしまったほどだ。お店の引き戸を開けた瞬間、芳醇な豆の香りに包まれる。店頭に透明なガラスの容器に入った多彩なコーヒー豆が並ぶ様は壮観だ。店主の中崎武雄さん(43)が笑顔で迎えてくれた。
■取り扱うのは珍しい「スペシャルティコーヒー」のみ
”ブラジル”、”エチオピア”、”コロンビア”といった国の名前を冠した豆の他、”スペシャルブレンド”、”ビターブレンド”など、ずらりと12種類が並ぶ。常時取り扱うこれらのコーヒー豆はすべて“スペシャルティコーヒー”だ。豆の栽培から生産、加工までが明確で、社会や地球環境にやさしいコーヒーを指す。もちろん、美味しく飲めて満足できることも重要。世界のコーヒー豆の生産量のうち、5パーセントほどしかないというレアな存在で、本来、少々値は張る。
ところが中崎さんは「コーヒーは極めて日常的な飲み物。だから購入するグラム数が多くなるほど割引を大きくして、より買いやすくしています。もっと気軽に、コーヒーをデイリーユースとして楽しんでしてほしいんです」と、リーズナブルに販売することへ強いこだわりを持つ。
■古民家をリノベーションした温かみのある雰囲気が魅力
「NAKAZAKI COFFEE ROASTER」は2017年4月にオープン。長らくカフェや飲食店にコーヒー豆を卸していたが、「小売りもしてほしい」という多くの声を受けて一般客にも販売を始めた。もうすぐ築100年を迎えるという中崎さんの実家をリノベーションした温かみのある店内では、コーヒー豆(挽きも可)やドリップバッグ(マグカップ一杯分をドリップできる)などだけを買うことができ、飲み物の販売は行っていない。取材中も顔見知りの客が次々と来店した。
■「航海士」から「焙煎士」に⁉「元々、コーヒーは好きじゃなかった……」
焙煎の仕事に20年以上携わってきたという中崎さんだが、最初に就いた職はなんと航海士という珍しい経歴の持ち主。2年弱勤務した後に友人から誘われ、コーヒー業界へ入る。不思議なことに、その頃はコーヒーが嫌いではないものの、好きではなかったという中崎さん。「うまく入れられないし、美味しいコーヒーに出会ったことがなかったので、一種のあきらめがありました」というが、勤めた会社の社長が入れるコーヒーが感動するほど美味しかったことで、完全にコーヒーの虜に。実家に戻るタイミングで安く焙煎機が手に入ったこともあって、コーヒーをいる道を突き進んだ。
■「いつか100点のコーヒーを」挑戦は続く
メーカーに勤務する、カフェを開くなど、「コーヒーに関わる仕事」は多々あるなかで、中崎さんは「焙煎」を選んだ。その魅力を聞くと、「そもそも豆を焼くのが好き、コーヒーを入れて飲むのが好き。自分が好きなコーヒーを入れたい、それだけなんです」と笑顔で答えてくれた。
豆の種類には大きく分けてストレート(産地などが同じもの)とブレンド(混ぜ合わせたもの)の2種類があり、それぞれに奥深さがあるという。ストレートは「生豆」をどのくらいの温度で、どのくらいの時間で焼き上げれば豆の良さを最大限生かせるかを考える楽しさ。ブレンドは、生豆をいった後に、それぞれの良さを出すにはどの配合がいいか、何度も繰り返す楽しさ。20年続けることで精度は向上しているが、いまだに100点の焙煎、配合ができたことはないそうだ。