<死んだはずのぼくの魂が、ゆるゆるとどこか暗いところへ流されていると、いきなり見ず知らずの天使が行く手をさえぎって、「おめでとうございます、抽選に当たりました!」と、まさに天使の笑顔を作った。>
【森絵都『カラフル』(文春文庫)より】
だってめちゃくちゃじゃないですか(笑)。いきなり主人公は死んでいるし、「はい??」となって次々とページをめくってしまう。気づけばこのめちゃくちゃな世界観にどっぷりとはまってしまっているわけです。
ポイント②:荒っぽい言葉遣いと、例えの表現
文章は、主人公「真(まこと)」の視点で書かれています。真は中学三年生。なるほど中三っぽい、多感で繊細な感情と、いらだちと、思春期独特のあの感じが、全体の文章で表現されているところが、読みやすいし面白い。
なかでも特に私が気に入っているのは、例えるときの表現です。
例えば、普段おとなしい真が明るく元気にふるまう様子に、クラスメイトがどよめく様はこのように表現されています。
<ぼくはその日、クラスのみんなから一日中、出産間近の宇宙人でも見るような目をむけられるはめになった>
【森絵都『カラフル』(文春文庫)より】
また、初恋相手のひろかに話しかけられたときは、このように表現されています。
<背中から、あまずっぱいフルーツみたいな声がした>
【森絵都『カラフル』(文春文庫)より】
胸がキュンとするような、一瞬ひっかかるような言い回しがたまらないんだよなぁ……ほんとに。
ポイント③:カラフルな表現
「カラフル」というタイトルだけあって、色の説明がかなり細やかです。例えば、ひろかの厚い唇は「つややかな桃色」とか、服装についても「紺色のダッフルコートを着たまま……」とか、「濃緑のジャケットに……」とか、読みながら姿が想像できる。森絵都先生のイメージとは完全に一致はしないと思うけど、読めば読むほど、キャラクター一人ひとりがなんとなく目に浮かぶ。これは、読書の醍醐味でもあると思います。
森絵都『カラフル』(文春文庫)
定価 本体620円+税
発売日 2007年09月04日
ページ数 272ページ
ISBN 978-4-16-774101-3
文芸春秋BOOKS https://books.bunshun.jp/ud/book/num/9784167741013