今まで自治体は来る理由ばかりを考えてきた。それは確かに雇用だった。給料の高い仕事があれば来るかもしれない。でも現実には来なかった。私たちは来ない理由を考えなければならなかった。それは教育であり、医療であり、広い意味での文化なのではないか。
実際にIターン政策、Jターン政策で成功しているところは、女性たちがおしゃべりができるカフェやスイーツやイタリアンのレストランとか、小さな街でもおしゃれな店がある。女性に選ばれない街は消滅していってしまう。そういう時代になってきた。
東京で考えている人口減少対策とはワーク・ライフ・バランスと呼ばれるもので、象徴的なのは待機児童問題です。もちろん兵庫県でも待機児童問題を抱える自治体はたくさんあります。しかし、多くの自治体は、子どもが欲しくてたまらない自治体です。子どもが欲しい自治体の課題は非婚か晩婚です。結婚できないということです。
現実に豊岡市でも結婚した世帯の出産率はここ数年上がっている。結婚も出産も個人の自由です。でも社会全体から見れば、結婚さえしてくれれば、子どもが増えることはわかっています。でも女性たちは口をそろえて「出会いの場が少ない」といいます。それからコミュニケーション不足。特に男子が、コミュニケーションがとれずに結婚できない。今の日本の男性は結婚しない人もいるが、結婚できない人もいる。
学生たちは「ふるさとに雇用がないから帰らない」とは言わない。口をそろえていうのは、「ふるさとはつまらない」と言います。東京や大阪でこんなに楽しい生活を知ってしまったら、もう帰れないと。
私は自治体の首長さんに「だったら面白い街をつくったらいいじゃないですか」と言います。あるいは出会いのある街をつくる。もう一つは、若者たちはいったん東京や大阪に出ていきます。戻ってきたくなる街にしなければならない。東京や大阪や神戸よりも、豊岡のほうが暮らしていて楽しいと思ってもらわなくてはならない。
大変な競争です。これを豊岡市では、「豊岡で生きる価値を見出す」と言ってきました。そして小さいけれども世界から尊敬される街をつくる。世界が憧れる街をつくる。それが豊岡市の政策になりました。今、私は芸術文化の側面でそれをお手伝いしています。
兵庫県豊岡市で目指すこと【下】平田オリザ 国際演劇都市の可能性
https://jocr.jp/raditopi/2020/04/26/49290/