兵庫県が2021年4月の開校を目指す(仮称)県立国際観光芸術専門職大学。平田オリザ氏はその学長に就任が予定されている。さらに自身が主宰する劇団の小劇場の建設も進む。今、豊岡で何が進みつつあるのか。ラジオ関西『ひょうごラジオカレッジ』で2019年12月に放送された「下り坂をそろそろと下る」と題した講演から平田氏の考えを2回にわたって紹介するシリーズ。第2回は「国際演劇都市」について――。
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豊岡市は、1市5町が合併してできた大きな市です。城崎温泉が有名ですね。木造3階建の旅館街を守ってきたことで、3月ぐらいになると女子学生が卒業旅行でたくさんやってきます。外国人も増えました。インバウンドは5年で40倍になりました。
この城崎に古いコンベンションセンターがありました。そこをリニューアルして「城崎国際アートセンター」として世界のアーティストが集う場所を作りました。ほとんど使われていなかった施設が、1年目から年間330日の稼働となりました。世界数十か国から70~80件の申し込みがあり、15団体ほどに使っていただいています。
ここを使う団体は必ず最後に成果発表をしてもらいます。公開リハーサルや、ワークショップ、学校に出向いて授業をしてくださるアーティストもいます。それによって豊岡の市民や子どもたちは、世界最先端のアートに触れることができる。東京に行かなくても世界の最先端のアートに出会うことができます。
豊岡は教育政策も大きく転換しようとしています。ふるさと教育、英語教育、コミュニケーション教育を3つの柱として、そのコミュニケーション教育の中に演劇的手法をつかった教育を実施しています。これは2020年以降の大学入試改革への対策であると打ち出しています。豊岡では東京の中高一貫校ほどではないけれど、それに勝るとも劣らないアクティブ・ラーニング化を進めていますよ、ということを売りにしてIターン、Jターンを呼び込もうとしています。
英語教育では、外国人教員が全ての小中学校に配置されています。ただ、豊岡市は「文部科学省のようなグローバル教育ではない」としています。世界で戦える人材を育てるのではなく、豊岡を国際化するための教育、世界から人々を迎えいれることのできる人材を教育すると公言しています。
なぜ豊岡市の教育政策がこれほどに変ったのか。これは東井義雄先生の影響が強いと考えています。東井先生は昭和30年代に「村を育てる学力」という概念を提唱されました。あの高度成長期、教員の評価はどれだけ多くの子どもを東京、大阪に出すかだった時代に、こんなことを続けていては、優秀な子どもほど都会に出て行ってしまい、村は廃れてしまう。それよりも、村を育て、村を守っていくような教育に変えていこうと先生はおっしゃいました。
先生は初任地から最後の校長までを但馬で過ごされ、今も出身地の旧但東町には東井義雄記念館があり、全国から教育者が訪れています。先生は今も但馬で尊敬されており、その理念がやっと花開き始めたのだろうと思います。
兵庫県豊岡市で目指すこと【上】平田オリザ 人口減少時代の街づくりとは
https://jocr.jp/raditopi/2020/04/25/49341/