豊岡の文化政策についてもお話しします。豊岡では今小学校2年生が現代演劇を、6年生は狂言を観劇し、4年生を中心に生でクラッシックを鑑賞します。興味をもった子どもたちは、城崎国際アートセンターで無料で演劇やダンスを見ることができます。豊岡駅前にある市民プラザではプロの演出家と夏休みに演劇を作る体験もできます。
文化政策というのは基本的にすそのを広げて、ステップアップしたい子どもたちが、上にのぼっていける環境をつくるのがいいとされています。豊岡はこれを完成できたかなと思っています。
そして2021年4月に兵庫県立の国際観光芸術専門職大学が豊岡市に開校予定です。認可が下りれば、日本では初めてダンスと演劇の実技が本格的に学べる公立大学となります。世界の先進国は国立大学に演劇学部があり、国立の演劇学校を持っているのですが、日本だけがなかった。これは演劇界の悲願でもありました。但馬にとっても4年生大学は悲願でした。
なぜ、観光と芸術なのかとよく聞かれます。諸外国では、文化政策と観光政策を一つの省庁で行っているところが多いのです。日本は文化は文部科学省、観光は国土交通省と、バラバラの政策になっている。これをつなげる人材を育成したい。文化と観光を結び、経済を、地域を発展させる。そういう学生を育てます。
豊岡は1市5町が合併してできたため、たくさんの文化施設を持っています。市町村合併をした自治体はどこも困っています。そこで豊岡市は機能分担することにしました。
私はよく病院に例えるのですが、総合病院は、けがや病気を治す一方で健康診断や健康相談もし、新薬の開発や医療技術の開発もします。劇場も同じです。豊岡市では、城崎国際アートセンターでは作品をつくり、市民プラザではワークショップや交流活動。市民文化会館では、大きな作品を鑑賞するという風に機能分化を進めました。片岡愛之助さんが歌舞伎をやってくださる「永楽館」もあります。旧日高町には何もなかったので、そこに小劇場をつくって私たちの劇団が移転することになりました。
2020年からは、本格的な国際演劇祭も開催することになっています。この国際演劇祭は、多くのアーティストが自主参加する形の演劇祭です。そこに世界中の観客やプロデューサーがくることによって見本市的な性格を持たせます。
そういった演劇祭が成功した街はアジアではひとつもない。成功の要件は3つ。1つは宿泊施設が整っていること。豊岡は神鍋高原の民宿から城崎の旅館まであらゆる階層の宿があります。そして招待演目ができる劇場がたくさんあること。豊岡にはそれがあります。あとはネットワーク。これは城崎国際アートセンターと私のネットワークがあります。
多くの企業が賛同してくださり、いよいよ本格実施となります。豊岡は人口8万人程度の小さな町ですが、文化、芸術、そしてコウノトリの野生復帰に象徴される環境保護などに取り組んできた。そこに暮らす価値を高めていこうと挑戦を行っています。
人口減少対策はきれいごとではすみません。減ることは避けられません。それなら、この急激な減少をどうにか抑えて、暮らしを守り、そこに暮らす人の価値を高めていく。急な下り坂ではなく、ゆっくりとした下り坂を用心ぶかく、でも希望をもって下っていく。それが大事なのではないでしょうか。皆さん、ぜひ但馬においでください。
兵庫県豊岡市で目指すこと【上】平田オリザ 人口減少時代の街づくりとは
https://jocr.jp/raditopi/2020/04/25/49341/