作家・玉岡かおるさんの著書『花になるらん―明治おんな繁盛記―』。2018(平成29)年9月に新潮社より刊行されているが、このたび文庫本として2020(令和2)年4月に再出版され、注目をあびている。
表紙の和服姿の女性を描いた装丁も、いつものように著者監修の思いに従って書き下ろしされたオリジナル画で、日本画のような、西洋画のような、淡い上品な作品に仕上がっている。
本編のタネあかしになるので少しだけにするが、画中にヒントが隠されているという。主人公(であろう)の女性の帯に描かれた絵や周囲に咲いている「薔薇の花」が作品を読み進むうちに「ああ、なるほど」と気づかせてくれる。
この作品は幕末から明治にかけての京都を舞台にしている。著者は「この時代の京都(幕末から明治)は二度、大切な記憶を失う」と述べた。
一度目は元治元年の蛤御門の変。京都の市街地ほぼ全域を焼失させた幕府方と勤王攘夷派の戦闘による大火(作中ではどんどん焼けと表現される)のとき。二度目は1200年ものあいだ京都に在った天皇が、東京都に名を改めた江戸へ行幸のとき。「ちょっと江戸にお出かけになられただけ、そのうちまた京にお戻りになる」と信じていたものの、実はそれは遷都であり、その後二度と京に居を戻すことがなかった。天皇を戴く日本の中心はここであるとの京都のプライドとアイデンティティがずたずたにされてしまったのだと。
この未曾有の歴史的大ダメージを受け、火が消えたようにさびれてしまった京都を、いかに元のようなきらびやかな文化都市へと復興していくか。奮闘する主人公の活躍が物語を力強く進めていくことになる。
ヒロインは京都の呉服商の御寮人(ごりょん)さん。
「皆が信用する、そんな逸品だけを揃えましょう」
知恵も回るし手も早い「ががはん」のあだ名に違わず、どんな時でも「ガガッ」と突き進めていく女性一代の痛快なストーリーには感心しつつも、思わず笑ってしまう。日本語、とりわけ関西人が得意とする(であろう)「オノマトペ」(擬音語や擬態語の包括的な名称)をオノマトペ動詞から名詞変化させた作者の「オノマトペセンス」は秀逸である。
「花になるらん―明治おんな繁盛記―」
玉岡かおる著(新潮文庫)
発売日 2020年4月1日
ISBN 978-4-10-129624-1
定価 880円(税込み)
電子書籍 価格 880円(税込み)
電子書籍 配信開始日 2020年6月19日
新潮社ホームページより
https://www.shinchosha.co.jp/book/129624/
玉岡かおるさん ホームページ
http://tamaoka.info/