播磨に新酒仕込みの季節が到来。
姫路市広畑区本町の田中酒造場で伝統の「石掛式天秤搾り(いしがけしき てんびんしぼり)」が始まった。21日までの3日間、じっくり搾られる。
田中酒造場は「温故創新」をモットーに、1835年(天保6年)から180年以上、姫路の地で酒造りを続けている。 有名な純米大吟醸「白鷺の城」は1988年(昭和63年)に全国新酒鑑評会で初めて金賞を受賞して以来のロングセラー。
石掛式天秤搾りは、醪(もろみ)を取る最古の方法で、 江戸時代から続いていたが、いったんはその手法が途切れていた。そこで六代目當主・田中康博社長が1990年代、21世紀を前に伝統の酒造りのアイデアを模索していたところ、この天秤搾りの道具を蔵の中で発見し、2000年に復活させた。まさにモットー通り「温故知新」の取り組みが始まった。
田中酒造場の石掛式天秤搾りは、 まず兵庫県産の米で仕込んだ「醪(もろみ)」入りの布袋をサクラの木の容器「酒槽(さかぶね)」に敷き詰める。 この「酒槽」(高さ80センチ、幅70センチ、奥行き1.3メートル)の中に重ねた「醪(もろみ)」、長さ約6メートルのケヤキの天秤棒につるされた石で槽に圧力を掛けて搾り出す。いわゆる「てこの原理」を利用している。
約60キロの石を棒の端に3つつるせば、木がきしむ音がする。その瞬間、約40袋分の醪(もろみ)を圧搾して酒が流れ出る。初めのうちは薄く濁るが、徐々に透明になってゆく。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、2020年の酒造業界は大規模なプロモーションイベントの中止、海外での感染拡大に伴う輸出とインバウンド消費の低迷、飲食店への休業・自粛営業要請による消費の低下など大打撃を受けた。こうした中、田中酒造場は従来より地元・姫路で日本酒を愛する人々と飲食店とのつながりを大事にして酒造りを続けている。その心意気で「地酒」の意味を追求。播磨の米を使い、芳醇な香りと深みのある味わいの新酒を生み出す。
播磨には、日本酒発祥の地とされる庭田神社(宍粟市一宮町能倉)や最も代表的な酒米「山田錦」を生み出した兵庫県酒米試験地がある。播磨が日本酒のふるさとと言われるゆえんだ。