2020年『密』に思う《4》~寄り添う心と心、でも埋められない距離 ひとり孤独と思わずに

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 漢字1文字の一般公募で1年の世相を表す「今年の漢字」、 新型コロナウイルスが世界的に猛威を振るった2020年は 「密」が第1位に選ばれた。これほどまでに「密」や「距離感」に敏感になった年はなかった。

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京都・蓮華王院 三十三間堂。

「ここ10年近く、毎月仏さまに会いに来るけど、空気の入れ替えでお堂の格子が開け放たれているのを見たのは初めてです。よう気を遣ってくれはります」三十三間堂近く、京都の七条界隈に住む60代の男性が驚いた表情を見せた。

三十三間堂 南北を貫く本堂内陣の柱間が33ある 長さ約120メートル
三十三間堂 南北を貫く本堂内陣の柱間が33ある 長さ約120メートル
三十三間堂 開放された格子(本堂南東角 ※許可を得て撮影しています)
三十三間堂 開放された格子(本堂南東角 ※許可を得て撮影しています)

 新型コロナウイルス感染拡大を防止するため、初めて発令された緊急事態宣言が解除され、少しずつ世間が動き始めた2020年6月、拝観が再開された。
 堂内を整然と並ぶ埋め尽くす金色の 1001体の「木造千手観音立像」 とは対照的に、参拝客に、いつものインバウンド(訪日外国人観光客)の姿はなく、 ごく数人が互いに距離を取って、右手に並ぶ観音像を眺め、北から南へ通じる細長い通路を譲り合いながら進んでいたのが印象的だ。

2020年6月 拝観再開後(※許可を得て撮影しています)
2020年6月 拝観再開後(※許可を得て撮影しています)
2020年3月 一部外国人観光客の姿も(※許可を得て撮影しています)
2020年3月 一部外国人観光客の姿も(※許可を得て撮影しています)

 1001体の観音立像が2018年に国宝に指定されて2年を迎えた。数え切れない無限の世界を表現、 それぞれの仏に名前がある。よく見ると顔はすべて異なり、もう一度会いたい、亡くなった人の顔が見つかるといわれる。
 神戸市東灘区の30代の女性は「仏さまは一見、密集しているように見えますが、私たちのコロナ収束への思いが達成されて通常の生活が戻るまで、ひとり孤独と思わずに、皆が同じ方向を向いて、一緒に支え合ってゆきましょう、というメッセージを発していると思います」と話した。

2018(平成30)年、1001体の千手観音立像(りゅうぞう)が重文から国宝に格上げされた(※許可を得て撮影しています)
2018(平成30)年、1001体の千手観音立像(りゅうぞう)が重文から国宝に(※許可を得て撮影しています)
三十三間堂ゆかりの後白河法皇が愛した歌謡「今様」800年ぶりに再現(2020年10月 ※許可を得て撮影しています)
三十三間堂ゆかりの後白河法皇が愛した歌謡「今様」800年ぶりに再現(2020年10月 ※許可を得て撮影しています)

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東京・上野公園。

 2020年12月中旬、東日本大震災から間もなく10年。津波で甚大な被害を受けた宮城県南三陸町など三陸海岸を支援する活動を続ける「学生団体ToKu」代表・森川颯太さん(20・ 大学2年 東京都内在住)がコロナ禍での支援活動で「埋められない距離」をどうするか自問自答していた。(※記事中写真・関係者提供)

寄り添う心と心、でも埋められない距離
寄り添う心と心、でも埋められない距離

「つながりが一番大事だと思っていたのが、人とのつながりが継続できないのが辛い」と嘆く。被災地で被災者と会い、さまざまな現実を聞いて語り継いできたが、2020年は現地へ行くことができなかった。三陸海岸の食の魅力や人の魅力を発信するには、やはり会いに行きたい。会って話がしたい。このままでは活動の継続も危ういという。

学生団体 ToKu 代表・森川颯太さん(大学2年)「心と心の距離、空けたくない」
学生団体 ToKu 代表・森川颯太さん(大学2年)「心と心の距離、空けたくない」

 森川さんは「被災地ではコロナ感染者の住む家に石を投げて非難したり、誹謗中傷の言葉を投げかけるなどの悲しい現実もある」と聞いた。関西・首都圏といった感染者の多い地域と、東日本大震災で被災した三陸一帯など、比較的コロナ感染者が少ない地域との意識の差もあると話す。

「115㎝ 小学1年生の平均身長」津波の高さをわかりやすく図示 身近に被害を知ってもらいたい
「115㎝ 小学1年生の平均身長」津波の高さをわかりやすく図示 身近に被害を知ってもらいたい

 東日本大震災が起きた2011年、小学1年だったという高校生の男女も男子学生とともに活動している。「実際に被災された方々と会って話がしたいです。確かにZOOMミーティング(オンライン会議)で被災地のみなさんと話ができますが、 遠距離の移動の自粛が求められると被災地と行き来ができない、被災地を肌で感じることができないんです。映像でしか知らない東日本大震災。新型コロナウイルスに対して世界中でどのように対処するか真剣に考えているのだから、3.11の悲惨な出来事、津波の恐怖や減災の方法などが忘れられないよう、改めてこの時期に問題提起したい。コロナの影響で、東日本大震災の被害について忘れ去られてしまうんじゃないかという被災地の声もあります。被災地のみなさん、ひとりじゃないんだと元気を出してほしい」とコロナ収束を待っている。

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2020年「今年の漢字®」第1位「密」 漢字ミュージアム・エントランスで展示《写真提供:(公財)日本漢字能力検定協会》
2020年「今年の漢字®」第1位「密」 漢字ミュージアム・エントランスで展示《写真提供:(公財)日本漢字能力検定協会》

 目に見えない「コロナウイルス」という敵と向き合った2020年が終わる。『密』の一文字に思うことを問うと、物理的な距離感ではなく「心の距離感」をどう保つかを答える人が多い。12月28日掲載の日本漢字能力検定協会・山崎信夫理事の分析のように、 withコロナの生活スタイルがより求められる2021年、心と心で密接になりたいという気持ちはさらに強まるのだろう。

 2020年『密』に思う《完》

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