「♪おとぎの国のロシアの 夢のおソリ(艝)が運んでくれた パルナス パルナス モスクワの味~」
テレビコマーシャルで女優・中村メイコさんとボニージャックスが歌うロシア民謡風のテーマソングが流れ、関西で一世を風靡した洋菓子製造業・パルナス製菓(2000年廃業)の『ピロシキ』を唯一扱う、尼崎市のカフェベーカリー「モンパルナス」が3月31日で閉店し、大阪府豊中市へ移転する。新型コロナウイルスの感染拡大に伴い来店客が激減、危機的な経営状況となっていた。
![「モンパルナス」尼崎の地で48年、今後は豊中・庄内へ](https://jocr.jp/raditopi/wp-content/uploads/2021/03/%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%91%E3%83%AB%E3%83%8A%E3%82%B9%E3%80%80%E6%AD%A3%E9%9D%A2%E2%91%A0-1024x576.jpg)
![昔から変わらぬ味「モンパルナス」のピロシキ](https://jocr.jp/raditopi/wp-content/uploads/2021/03/%E5%B0%BC%E5%B4%8E%E3%81%AE%E3%81%8A%E3%81%BF%E3%82%84%E3%81%92%E3%81%AF%E3%83%91%E3%83%AB%E3%83%8A%E3%82%B9%E3%81%AE%E3%80%8C%E3%83%94%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%AD%E3%80%8D-1024x576.jpg)
源流となるパルナス製菓は1947(昭和22)年、兵庫県加西市出身の故・古角(こかど)松男さんが神戸市で創業。のちに大阪市北区や大阪府豊中市に本社を構えた。1970(昭和45)年に開かれた大阪万博では、ソ連館にレストランを出店、最盛期の1980年代には兵庫、大阪を中心に約280店のチェーン店を数えた。テレビコマーシャルは、日本ではロシア(旧ソ連)になじみがほとんどなかった「米ソ冷戦時代」に始まった。星空のもと、モノクロ写真の男の子がおとぎの国・ロシアに思いをはせ、アニメーション画像で宮殿や湖畔にたたずむ女性が登場、トナカイがシュークリームなどの洋菓子を運ぶ独特のもの。関西在住で見たことがあるという中高年の方も多いのではないだろうか。
![関西では懐かしいマスコットキャラクター「パルちゃん(パルナス坊や)」](https://jocr.jp/raditopi/wp-content/uploads/2021/03/%E3%83%91%E3%83%AB%E3%83%8A%E3%82%B9%E5%9D%8A%E3%82%84%E2%91%A1-1024x576.jpg)
「モンパルナス」は松男さんの弟、伍一さんが独立し、1974(昭和49)年に阪神電鉄・尼崎駅構内に店を開いた。現在は伍一さんの長男・武司さん(61)が「パルナス商事」の社長として運営する。パルナス製菓本体は黒字経営だったが、洋菓子業界の競争は激しく売上高の減少が続き、2000年に営業を終了、その後会社を清算した。しかしモンパルナスはその味を守り続けている。ピロシキの具材は卵・タマネギ・牛ミンチ。塩・コショウのみのシンプルな味付けは、何個でも食べられる。日本在住のロシア人も「本場の味」と絶賛したという。それもそのはず、パルナスのピロシキ「パルピロ」は旧ソ連最大の国営菓子メーカーとされた、ボルシェビーク・モスクワ製菓工場の職人から技術指導を受けて誕生、モンパルナスにも受け継がれたのだ。1950年代の日ソ国交回復の影響は大きかった。
![古角武司社長「ウチのピロシキは日本一」との自負を持ち続ける](https://jocr.jp/raditopi/wp-content/uploads/2021/03/%E3%83%91%E3%83%AB%E3%83%8A%E3%82%B9%E3%80%8C%E3%83%94%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%AD%E3%80%8D%E3%81%A8%E5%8F%A4%E8%A7%92%E7%A4%BE%E9%95%B7-1024x576.jpg)
![モンパルナス・名物「ピロシキ」はいつも完売](https://jocr.jp/raditopi/wp-content/uploads/2021/03/%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%91%E3%83%AB%E3%83%8A%E3%82%B9%E3%80%8C%E3%83%94%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%AD%E3%80%8D%E5%B1%B1%E7%A9%8D%E3%81%BF-1024x576.jpg)
新型コロナウイルス感染拡大の波を受け、古角社長が2020年春、手作りのホームページで「助けてください」と苦しい胸の内を訴えると、「パルピロ」を愛する全国の人々がインターネットなどで支援を呼びかけた。ピロシキのネット通販は話題となって一時期、生産が追い付かなくなったが、2020年5月にコロナ感染拡大第1波が過ぎ、緊急事態宣言が明けてからは、熱気も一気に冷めてしまった。店内に65席ある座席は35席に減らし、売り上げは半減した。何よりも客足が遠のいた。阪神・尼崎駅周辺には意外にも喫茶スペースは少なく、本来ならば売り上げの3分の2を喫茶部門で占めるモンパルナス、もともと18時までの営業だったため緊急事態宣言発令中でも協力金の給付対象ではなく、テナント料の支払いに苦慮するようになった。
![本場・モスクワから職人を招いた直伝の味「パルピロ」低価格で奉仕](https://jocr.jp/raditopi/wp-content/uploads/2021/03/%E3%83%91%E3%83%AB%E3%83%8A%E3%82%B9%E3%80%8C%E3%83%94%E3%83%AD%E3%82%B7%E3%82%AD%E3%80%8D-1024x576.jpg)
しかし「親の代から受け継いできたピロシキの味、日本で一番おいしい『モンパルナスのピロシキ』という自信もある。関西の人たちを中心に今も愛されている」と古角社長は話す。「何とか営業を続けたい。今より条件の良い店舗はないだろうか」駅に近くて従業員8人が通勤しやすく、何よりも常連客が気軽に来てくれる場所を探し回った。