江戸末期の創業から今年で173年目。伝統的な酒蔵を継承している酒造会社が、兵庫県明石市魚住にある茨木酒造合名会社だ。風情あふれる立派な酒蔵は2008(平成20)年に兵庫県登録有形文化財に指定されている。
「維持のための工夫、苦労も多い」と語るのは、蔵元の茨木幹人さん。
夏場の日差しを遮るため、南側は土壁になっている、酒蔵。北側は冬の厳しい寒風が入りやすいという機能的な構造になっている。1年を通じて熱の上がらないよう、涼しい環境を維持している。
明石は神戸の灘に対して「西灘(にしなだ)」と呼ばれ、名水で仕込まれた日本酒が有名な地域。古くから酒造に適したお米の産地として知られる播磨平野にあり、井戸水や季節風に恵まれたことから、良質の酒が生産されるようになり、最盛期には70軒もの酒蔵があったそうだ。ちなみに、酒米(酒造好適米)の「山田錦」は1923(大正12)年、当時、明石にあった兵庫県立農事試験場で生まれたことも知られている。
ただし、今、明石に残っている酒蔵は、わずか6軒。とはいえ、1つの市で6つの酒蔵を有しているのは、「明石の地が酒造りの盛んだったからだと思います」。そう語る茨木さんは、オーナー杜氏として、9代目となる。
そんな茨木さんたちが守り続けている味が、茨木酒造の代表銘柄「来楽(らいらく)」。その名は孔子の「論語」にある「朋(とも)あり 遠方より来たる また楽しからずや」に由来し、「人生最高の楽しみとは、家族や仲のよい友人と酒を酌み交わして歓談することである」という意味を持つ。“そこにある酒であるように”との思いでつけられているそうだ。
兵庫県のお米と地元の地下水を使って、大がかりなことをせず、昔ながらの手造りで大事に守り続けてきた、茨木酒造のお酒。いろんなカテゴリーの食事に合わせたラインナップが増えつつあるなか、同社ではこれからも商品の研究に取り組むという。