ところが、「発出」を見てみますと、広辞苑では「(1)あらわれること。あらわすこと。おこすこと。(2)出発に同じ」、新明解では「役所などから通達などを出すこと」そして「局長通達(危険情報・緊急事態宣言)をーする」とあります。
これらの意味を組み合わせると、「緊急事態を『世間や外部に発表する文章をあらわすこと』」。似たような意味の言葉が並んでしまい、かえってややこしくなっています。
放送に携わる私たちは、難しい言葉が出てきたとき、意味を損なうことなく、どの世代にも理解してもらえるように、わかりやすい表現や言葉使いで言い換えることがあります。(まだまだ十分ではありませんが……)
今回の「緊急事態宣言発出」であれば、「緊急事態が宣言されました」というように、「発出」という言葉を使わず、意味が伝わるように工夫をします。(基準は放送局で異なります)
とはいえ、言葉は常に揺れています。最初の「緊急事態宣言」が出されて1年あまり。今回が3回目です。今や「緊急事態宣言」という言葉自体が、多くの人に認知され、市民権を得つつあるのも事実です。このため、それぞれの単語の意味で解釈を行うのではなく、「かたまりの言葉」としてとらえる方がいい、という考え方もあります。近い将来は辞書に「緊急事態宣言」という言葉が、ひとつの「名詞」として、載る時が来るのかもしれません。
もっとも「緊急事態」は何回も起こってほしくありませんが……。
言葉は時代とともに変化します。「ことばコトバ」では、そんな言葉の楽しさを紹介しています。
(「ことばコトバ」第3回 ラジオ関西アナウンサー・林真一郎)