兵庫県などを対象として出されている緊急事態宣言が再延長され、飲食店などへの酒類提供禁止要請は20日まで続くことになった。懸命に我慢を続けてきた飲食店や卸業者などからは「『お酒=悪』なのか?」「正直者が馬鹿を見る」と、いら立ちの声も聞かれる。
兵庫県神戸市中央区に店を構える「ビストロレクレ神戸」の瀬戸烈さん(46)は、「お酒にはリラックス効果があるので、会話を弾ませることは否めません。ただ、適度な飲酒は人の疲れを癒します。だから、『酒は百薬の長』と言われるのです。ごく一部のマナーの悪さにより『お酒=悪』ととらえかねない風潮は非常に残念です」と、1人のソムリエとして、現状を嘆く。
■コロナ禍における「お酒=悪」という風潮
日本各地で「路上飲み」が社会問題化している。夜な夜な、路上や公園で酒盛りをする人々がいれば、見回りをし、止めるよう呼びけかる自治体職員や警察がいる。瀬戸さんは、こうした事態は予測できたはずだと指摘する。「今は亡き落語家、2代目・桂枝雀さんは、『笑いは緊張と緩和だ』と言いました。コロナのまん延防止を目的とした『規制』は、解除した時に『緩み』を生み、さらには別の場所で『新たな密』を生みます。緊張と緩和がなければ笑いは起きないように、規制と緩みがなければまん延も起きないとは考えられないでしょうか」。
■まちの酒屋は「瀕死の状態」
神戸市兵庫区で大正13年創業の業務用酒販店「ケインズリカー」を営む小河美智恵さん(55)は、「コロナが流行する前と比べて、2020年度で約7割、21年5月に限れば95%の売り上げが減っています」と深いため息をつく。今年4月末、兵庫県に対して3度目の緊急事態宣言が出され、県は国の対処方針に則り「酒類の提供をするなら休業を」との要請を出した。店が酒類を出さなくなれば、酒屋へのオーダーもストップする。「宣言の影響で、飲食店からかなりの数の返品がありましたから、現場は大混乱です。酒販免許が緩和され、コンビニやスーパーで安くに酒類を手に入れることができるようになりました。家でのむことが主流になっている今、まちの酒屋は瀕死の状態です」(小河さん)。
■「日本の飲食文化が衰退する」
「ビストロレクレ神戸」では、「ケインズリカー」から酒類を仕入れているという。瀬戸さんは、「ソムリエは生産者や輸入元と密にコミュニケーションを取り、より良質なものをまちの酒屋を通して仕入れます。だからこそ、店で飲むお酒は『非日常』なんです。まちの酒屋が潰れれば、飲食店も営業が成り立たない。大げさでなく、これまで培ってきた日本の飲食文化を失うことになりかねません」と強調する。小河さんも、「『飲』と『食』を切り離して考えている時点で、文化水準の低い政策だと思います」と指摘する。