「お酒飲めますよ!」「居酒屋お探しですか?」
兵庫県内で最大級の繁華街、三宮エリア(神戸市中央区)。緊急事態宣言が出されていた5月中旬の午後9時ごろ、神戸市に住む50代の女性は、若い男女から立て続けにそう声をかけられたという。宣言下では、飲食店などでは酒類の提供が禁じられているはずである。女性はもちろん、その誘いを断ったというが、「人間って、『あかんよ』と言われれば、そこをかいくぐって隠れて飲みたい。あるいは家でパーティーを開きたい。結局、(感染者が)増える。そういう生き物なのですね」とため息をつく。
■禁酒法時代に「過去最高の売り上げ」
神戸市中央区に店を構える「ビストロレクレ神戸」の瀬戸烈さん(46)に、興味深い話を聞いた。「かつて、アメリカ合衆国で禁酒法が施行されていた時代においても、カリフォルニアのべリンジャーという生産者は、教会におけるミサ用のワインをつくることを特別に許されていました。ベリンジャーの向かいには郵便局があります。その局長室のドアを開けると、地下につながる階段があって、バーがあった。そこでみんな隠れて飲んでいたそうです。実際に生産者のもとを訪れた際、『あの時はどうだったの?』と聞いたら、『史上最高の売り上げだった』と返ってきました」(瀬戸さん)。
■「待って、引かんといて!」「酒を出すから、罰金払って」
神戸市内の酒販店で配達を担当するスタッフは、とある居酒屋で消費されたノンアルコールビールの空きビンを回収しようとした際、店員から「待って、引かんといて! (ビールを)詰め替えるねんから」と言われたという。スタッフは、「内緒で売っているお店があることは心が痛い。これを断ったら一生、注文はない、なぜ後ろめたい気持ちで仕事をしなければならないのか」と苦しい胸の内を明かす。
自身は酒類の提供自粛要請に応じているという飲食店店主は、「他の店では、ジョッキに生ビールを入れてお客さんに出して、その横にノンアルコールビールの空きビンを『ドンッ』と置く。これで誰もわかりませんよね。真面目にやっているほうがばかばかしい」と憤る。他にも、裁判所に過料を払うことを前提に、「酒類を提供する代わりに、罰金に協力して」と店側が呼びかけ、店が置いた貯金箱に、常連客が500円、1,000円と次々に入れていく店もあるという……。
■兵庫県内ではなおも21店舗が要請に応じておらず…