日本では、様々な品種のなすが栽培されているが、その中でも、大阪の泉州地域で取れる水なすは、みずみずしくて柔らかく、丸みをおびた形が特徴。ギュッとしぼると水が滴るほど水分を含むため、その昔、泉州のお百姓さんは農作業で乾いた喉を潤すのに水なすを食べていたとも言われている。
そんな水なすの魅力を存分に活かす食べ方は、なんといっても「ぬか漬」。特に、堺共同漬物がつくる「水なす漬」は甘みとやわらかさ、さらには色といった、「水なす」の良さが特に活きる独自の漬け方でつくられている。
水なすは栽培が難しく、流通が難しいので、最近までは地元でしか食べることができなかったという。そのなかで、堺共同漬物は「こんなにおいしい水なすをもっと多くの人に食べてほしい」と、水なすの取り扱い方に注意を払い、漬物の加工技術を高めることで、水なすを「水なす漬」として、全国に広めたパイオニア。堺共同漬物の林野賢寛さんに「水なす漬」について詳しく話を聞いた。
林野さんによると、「水なすは表面の皮がとても薄くて傷つきやすく、農作物の中でも特に繊細」とのこと。このため、水なす漬の製造には特に丁寧な作業が必要となる。収穫された水なすの状態を見極めながら、漬け込み時間や荒漬けの塩の濃度を調整していく。水なすは、普通に塩もみをしてしまうと表面の皮がボロボロになってしまい、仕上がりも悪くなってしまう。そのため、堺共同漬物では粒の細かな籾殻で水なすを一つひとつ手揉みするひと手間をプラスしている。手揉みをすることで、水なすの表面に目に見えないくらいの小さなキズがつくため、色や浸かりのムラも出さずに、水なすを漬け上げることができる。
この方法は、堺共同漬物が大阪府の研究機関と共同開発した製造技術。特許取得も検討したそうだが、製法を公開することで世の中の漬物がよりおいしくなるように、と特許を取っていない。ただ、籾殻を洗い落とすのがとても大変なため、「他の会社では、ここまで手間をかけて実践しているところはなかなかないです」と林野さん。
また、堺共同漬物がコープ自然派向けに製造している「水なす漬」は色を安定させるために一般的に使われる食品添加物のミョウバンや、うま味を補う化学調味料を使っていない特別仕様。ミョウバンを使うとナスが少し硬くなるため、ミョウバンを使わないこの商品は水なす本来の柔らかい食感も楽しめるうえに、自然で落ちついた「なす紺」に仕上がっている。
水なす漬をより美味しく食べられる方法について林野さんが教えてくれた。そのポイントは「切り方」にある。水なすの色素が鉄分を嫌い、反応を起こしてピリピリとした食感になってしまうため、包丁の使用を最小限にとどめて、手で割くのがオススメとのこと。