芳根京子主演 “人間は何のために生きるのか”考えるきっかけを与えてくれる映画『Arc アーク』レビュー

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 SF作家ケン・リュウが原作、芳根京子が主演し、『蜜蜂と遠雷』の石川慶が監督としてメガホンをとった、永遠の命を得た女性の人生を描く映画『Arc アーク』が6月25日より公開されています。今作の魅力を、映画をこよなく愛するラジオパーソナリティー・増井孝子さんが解説します。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 年を重ねるということは、どんどん別れを経験する機会が増えるということ。家族、友人、知人、ペット……、大切な人や動物、愛してきたモノとの別れは本当にツライ。いつまでも一緒にいたいと思うけれど、それが叶わないことは百も承知で、だからこそ限りある時間をどう過ごすかが大切になってくる。

 でも、もし不老不死を手に入れ、永遠の命を手にすることもできるなら、貴方はどうする?

 原作は中国系アメリカ人の作家ケン・リュウの「円弧(アーク)」。彼は、2012年「紙の動物園」でヒューゴ賞、ネビュラ賞、世界幻想大賞というSFの主要な3賞の短編部門を独占したという現代SF界をリードする作家であり、中国の作家を英語圏に紹介する翻訳者としても活躍中だ。

 脚本を書き、監督し、編集も手掛けたのが石川慶。ポーランド国立映画大学で演出を学んだ彼は、「愚行録」(2017)、恩田陸の直木賞と本屋大賞のW受賞作「蜜蜂と遠雷」(2019)などでメガホンを取った。今作では同じ大学で撮影を専攻したピオトル・ニエミイスキを撮影監督に迎え、色彩や音など、どこかヨーロッパ風な独特の映像世界を生み出した。

(c)2021映画『Arc』製作委員会

 17歳で出産したリナ(芳根京子)は産院に赤ん坊を残していなくなり、19歳のとき放浪生活のなかクラブで踊っていたところを、化粧品会社・エターニティ社のエマ(寺島しのぶ)に出会う。

 すぐに会社を訪ね、彼女のもとで仕事を始めることになるリナ。実はこの会社、最愛の存在を亡くした人の依頼を受け、遺体から血液を抜いて防腐剤を注入する「プラスティネーション」という施術をし、その身体を糸で操って最もその人らしい生前の姿を留めておく“ボディワークス”というテクニックで注目を浴びている会社だった。

 残された遺族の依頼で、少しでもその悲しみを和らげようとするエマの技術は、そのままリナに受け継がれていく。

 一方、エマの弟の天才科学者・天音(岡田将生)は、その技術を発展させ、「不老不死」を手に入れる。

 彼と結ばれ、その施術を受け、永遠の若さと命を手にするリナ。

(c)2021映画『Arc』製作委員会

 一方、エターニティ社では施術を受けない(あるいは受けられない)人たちが余生を送る療養ホームを、ある島に用意する。そしてそこにやってきた老夫婦、芙美(風吹ジュン)と利仁(小林薫)。

 灯台を描いた絵でつながる記憶。すべてを受け入れる二人の生き方、人間は何のために生きるのかという、哲学的な問い。「死は生の中にあって、生は死の中にある」という死生観。モノクロでとらえられた画面の中で静かに熟成する思い。

(c)2021映画『Arc』製作委員会

 ちょうど、コロナ禍の始まる前に撮られた作品だが、現在の閉塞感の中で、「他者とのかかわりや、家族とは何?」と改めて考えるきっかけになった。

 鑑賞後の印象、受け取り方は様々だと思うが、いろいろと考えさせられるのは確か。それも、ひとり静かに考えるだけではなく、考えたことを誰かと語り合いたい、シェアしたいと思う映画だった。(増井孝子)

※ラジオ関西『ばんばひろふみ!ラジオDEしょー!』、「おたかのシネマdeトーク」より


◆『Arc アーク』
6月25日(金) 全国ロードショー

キャスト:
芳根京子、寺島しのぶ、岡田将生、清水くるみ、井之脇海、中川翼、中村ゆり/倍賞千恵子/風吹ジュン、小林薫

原作:ケン・リュウ『円弧(アーク)』(ハヤカワ文庫刊 『もののあはれ ケン・リュウ短篇傑作集2』より)
脚本:石川慶 澤井香織
音楽:世武裕子
監督・編集:石川慶
製作:2021映画『Arc』製作委員会 製作プロダクション:バンダイナムコアーツ
配給:ワーナー・ブラザース映画

(c)2021映画『Arc』製作委員会

【公式サイト】

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