当初はなかった言葉「コロナ禍」 放送でアナウンサーが悩む理由とは | ラジトピ ラジオ関西トピックス

当初はなかった言葉「コロナ禍」 放送でアナウンサーが悩む理由とは

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「禍」。すっかりおなじみになったこの字、「か」です。

「コロナ禍」という言葉で皆さんもご存じかと思います。「禍」という字、他の字と似ているため、勘違いしている方もいるようです。

 たとえば、「渦(うず)」「鍋(なべ)」。なかには「蝸」という表記も見たことがあります。この字の後に「牛」がつくと「カタツムリ」になってしまいます。それはともかく、「禍」という言葉の意味は「わざわい。災難。」(新明解国語辞典)です。現在は「コロナ禍」という言葉を多くの方が使っていますが、ほかにも「禍」という文字が使われる言葉はあります。

「惨禍」…天災や戦災になどによる、見るに堪えないほどの災難。「禍根」…わざわいの起こるもと。「舌禍」…(1)自分の言ったことがもとになって他人を怒らせたりなどして受けるわざわい。(2)他人の悪口・中傷などによって自分が受けるわざわい。(いずれも新明解国語辞典)など、たくさんの「○○禍」があります。

 さて、その「コロナ禍」という言葉。私は一部の例外を除いて使いません。原稿にあった場合、個人の発言以外は、「新型コロナウイルスのため」などと必ず言い換えます。その理由は他の言葉と混同してしまうからです。書かれている場合は一目瞭然ですが、聞くだけだと、『コロナ禍』『コロナ下』、どちらを示すのか、聞いている方には判断できません。この「下」の読み方は「した」「げ」「か」などがありますが、今回の場合は「か」。「緊急事態宣言下」という言葉を目にした方もいると思いますが、読みは同じでも、意味は「緊急事態宣言のもとで」です。つまり「下(か)」と書いても、意味は異なるのです。

 たとえば「コロナ禍の結婚式」という言葉。「新型コロナウイルの大変な災難のもとでの結婚式」という意味です。しかし、本来の意味でとらえると「新型コロナウイルスの大変な災難の結婚式」となってしまいます。あくまでも極端な例ですが、厳密に言えばこうなります。その原因は「コロナ禍」という言葉のとらえ方。「新型コロナウイルス」「災難」の2つの意味をまとめたことで、固有名詞のような1つの「かたまり」になってしまったことから起きたといえます。

「コロナ禍」も以前はなかった言葉です。最初が誰かはわかりませんが、「新型コロナウイルスによる」と毎回言うのが面倒になり、短くする過程のなかで「変化」させた可能性もあります。確かに短い言葉で縮めて表現するのは楽で便利ですが、本来の意味が取り違えられる可能性がある時は、注意しなければなりません。いずれにしても、この新型コロナウイルスが、「収束」ではなく「終息」することを心から願います。(この「しゅうそく」も、聞くだけでは判断が難しい言葉ですね。)

 言葉は時代とともに、その意味も使い方も変化します。「ことばコトバ」では、こうした言葉の楽しさを紹介していきます。

(「ことばコトバ」第14回 ラジオ関西アナウンサー・林真一郎)

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