兵庫県弁護士会は26日、兵庫県尼崎市との間に「災害時等における連携協力に関する協定」を締結した。 兵庫県弁護士会が、県内自治体と災害連携協定を締結するのは、尼崎市が初めて。
2021年も各地で水害や土砂災害が発生した。8月の停滞前線による長期間の大雨は、広域に被害をもたらし、人命が失われるなど、市民は常に危険に直面している。こうした中、借家の甚大な被害の修繕や災害後のローンの支払いなど、発災後の市民の生活再建が課題となっている。
締結された協定は、尼崎市内で豪雨や地震等の自然災害が発生した場合に、一人ひとりの被災者に対する迅速な生活再建の支援や手続きを進めるため、避難所や公共施設などで弁護士による相談や有益な法的情報を提供(※原則・相談料無料)するもの。
稲村和美・尼崎市長は神戸大学在学中に阪神・淡路大震災を経験、避難所でボランティア活動に携わった。「日本では、残念ながら災害が起きて初めて、被災者支援制度が進化してきたのも事実。1000年に1度の災害、といわれても制度は1000年に1度の対応ではない。それが大きな課題。行政をつかさどる以上、一定の連続性を求められる中、例外ばかりを認めるわけにもいかず、そのはざまでいかに進化させるかを考えてきた。ただ、1つのタイミングで、新たな課題が見えてきたり、これまでの積み重ねが実を結んだりすることもある。『課題解決先進都市』尼崎市だからこそ、阪神・淡路大震災の経験から積み重ねてきたものをベースに、目先の生活相談や市民のサポートはもとより、制度のあり方や運用について、中長期的な視野で弁護士会とともに考えていきたい」と意欲を見せた。
これまで数々の災害支援に取り組んできた津久井進(つくい・すすむ)兵庫県弁護士会・会長は「阪神・淡路大震災を経験し、数々の苦難を味わった兵庫県。失敗もあったし教訓もあった。こうしたことを、今後起こる災害でどう生かすか。検証や原因究明、制度の改善、新たな取り組みを自治体とタッグを組んで対処したい。だからこそ、自然災害への備えは重要な課題。行政が遣るべきことと、弁護士会が果たすべきミッション、使命がある。それぞれが生かし合い、被災された方々一人ひとりと向き合ってきた積み重ねを大事にしたい。そのために「約束=協定」が大事。市民は有事の際にまず行政の窓口に駆け込む。その先にわれわれ弁護士が被災者の悩みや苦しみを和らげることができるはず。密な連携、顔の見える新型コロナウイルス感染拡大による深刻な事態も災害にほかならず、今回の協定はこうした感染症のまん延や、大規模な火災や事故等も対象とし、市民生活に多大な影響を与える”危機”を広く対象としたい。我々を取り巻く多大なリスクに対処するため、平時からの備えがいかに重要であることを改めて認識していただきたい」と話す。
▽尼崎市との協定のポイントは3つ。
1、被災者の不安を少しでも安心に変えられるよう連携体制を十分に整備
2、生活再建に関する法的情報をSNSなどを通じてわかりやすく発信できるよう準備
3、尼崎市と弁護士会が信頼関係をもって連携できるよう「顔の見える」関係づくりに努める
尼崎市と弁護士会の連携は、子どもの人権擁護、暴力団排除(2020年11月に発砲事件のあった市内の暴力団関連施設について全国初の行政による買い取り)などバリエーションの幅が広い。稲村市長は「専門的なサポートのもとに法制度を活用するスキルがこれからの行政に求められる。特に災害時は顕著。だからこそ、定期的な情報交換や勉強会の開催も視野に法律のプロ集団・弁護士会のアドバイスを仰ぐことができる」と、「顔の見える」関係の構築に期待を寄せた。
2018年12月には、日本弁護士連合会と全国市長会との間で「災害時における連携協力に関する協定」が締結され、全国各地で同様の動きが進んでいる。なお兵庫県弁護士会は今後、尼崎市と同様に、兵庫県内の全ての自治体(29市、12町)と協定を締結し、災害時の対応について連携を強化する。