なつかしい故郷の方言についてお送りする第3弾。
今回は「にぬき」。皆さんはご存じですか?
「『にぬき』作ったから食べ?」とか「『にぬき』弁当に入れといたで」などと使います。
そう、「にぬき」は食べ物、「ゆで卵」のことです。古くから関西、特に大阪を中心とした地域で使われている言葉です。
漢字では「煮抜き」と書きます。つまり、煮抜くのです。卵を湯で温め、水分をなくしてできあがり。「かたゆで卵」のことで、「半熟」ではありません。新明解国語辞典(三省堂)には「堅ゆでにした卵」とあります。
また、関⻄弁辞典(ひつじ書房)には「十分に煮た卵という発想から生まれた表現。」とあります。
私が生まれ育ったのは奈良です。小さい時から母親がずっと「にぬき」という言葉を使っていて、当たり前だと思っていたところ、友人たち(同じ奈良生まれ)があまり使わないのを知り、驚いたことを覚えています。いま、社内でこの言葉を知っているのは大阪・堺出身の男性ディレクターくらいで、ほとんどの人が知りません。やはり大阪とその周辺地域で存在した言葉なのでしょう。また、年齢によっても使う、使わないは異なると思います。
「煮抜き」はいつ頃から使われていた言葉でしょうか。確かなことはわかりませんが、前出の関西弁辞典には、
「浄瑠璃の『長町女腹切』(1712頃)に『髭寄せて頬ずりは、わさびおろしに煮抜きの玉子、いたそな顔のいたいたし』とある」と書かれています。この時代は江戸時代の中頃で、六代将軍徳川家宣から七代家継の頃です。少し前には元禄文化の華が開いた時代です。浄瑠璃は当時の世相を反映した演目が数多くあったことから、少なくともこの時代に「煮抜き」という言葉は一般で広く使われていたと思われます。