作中に日本的なイメージが取り入れられたのは、監督・脚本を担当したのが日系アメリカ人、キャリー・ジョージ・フクナガだということも影響しているのだろう。20代の初めごろ半年間ほど北海道に住み、スノーボードを楽しんだり、英語やフランス語を教えたりした経験を持っているらしい。最初の発表では、『トレインスポッティング』などで知られるイギリスのダニー・ボイル監督が撮るとされていたところ、創作上の意見の相違があり降板した。そのあとを受けての登場だったにもかかわらず、期待以上の作品に仕上げた演出はさすがだ。
音楽も外せない。主題歌を歌うのは、第62回グラミー賞で主要4部門を含む5部門を受賞したビリー・アイリッシュ。愛の哀しみをうたい上げた表現力が出色。そして今作はもう1曲、心に残る曲が使われている。ルイ・アームストロングの『We have all the time in the world(邦題:愛はすべてを越えて)』だ。ボンドとマドレーヌがマテーラの町を愛車・アストンマーティンで走るシーンに加え、エンドロールでも流れる。実は、『女王陛下の007』(1969年)で、ボンド(ジョージ・レーゼンビー)とテレサの車でのハネムーンのバックに挿入歌として流れるのが、この曲だった。今作ではそのタイトルと同じ「We have all the time in the world」とのセリフが出てきて「時間はいくらでもある」と訳されているのだが、『女王陛下の007』のときと同様、2人の時間がいくらもないことが伝わる憎い描き方で、『女王陛下の007』へのオマージュともなっている。
先述のように車はアストンマーティン、そして銃はワルサーPPK、時計はオメガのシ―マスター、衣裳はトム・フォード。ますます渋みを加えて素敵になってきたダニエルのボンドがもう見られないと思うと胸がつまる。
アクションもスゴイうえ、泣けるボンド作品『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』。ぜひ、画面が大きく音響のいい劇場で~!!
※ラジオ関西『ばんばひろふみ!ラジオDEショー!』、「おたかのシネマdeトーク」より