セキュリティや高齢者の介護のためのロボット、可動式でカバーを着せ替えることができる椅子、和紙を使った照明器具など、未来を見据えたデザインを生み出し、日本とイタリアを拠点に活躍するプロダクト・デザイナー、喜多俊之の作品を集めた展覧会「喜多俊之展 TIMELESS FUTURE」が、西宮市大谷記念美術館で開かれている。2021年12月5日(日)まで。
会場に入って目に飛び込んでくるのは、喜多の代表作のひとつである赤いソファ《SARUYAMA》。「ちょっと横になってみたい」「よじ登ってみたい」など座るだけでなくいろいろな動作を試してみたくなる。《SARUYAMA》という名前も、自由に野山を駆け回る猿たちの行動にちなんで付けられた。
会場内には、喜多の自由な発想から生まれ、人の心と身体にとっての心地良さを追求した作品が並ぶ。
喜多が手掛けたデザインには、未来を見据えたものが多くみられる。2003年に発表された人型ロボット《WAKAMARU》は、音声認識による簡単な対話や10人までの顔認識が可能。
《CASA EOLIA 電線のない家》は、太陽光と風をエネルギーに1軒の家のエネルギーを賄うというもので、電気自動車のチャージも考えられている。これを発表したのはソーラーバッテリーが量産される前の1992年だった。
スタッキング可能な家庭用・業務用チェア《MIRAI-SORA, TOKI, YUME》。テーブルに椅子のアーム部分をひっかけぶら下げることもできる。発表されたのは1989年。「当時はまだお掃除ロボットも登場していない。今なら椅子を浮かせることでお掃除ロボットも動きやすくなる。10年先20年先の未来を見据えていた」というのは、西宮市大谷記念美術館の下村朝香学芸員。
時代を予見する新しいデザインを生み出す一方で、喜多は日本の伝統工芸の持つ力にも敬意を払っている。手すきの和紙を使った壁掛けの照明器具《TAKO》は、ヨーロッパを中心に大ヒットした。手すき和紙は、軽くて強く、変色もせず、光を柔らかく通す。和紙や漆など日本の伝統工芸を現代の生活に合うようにデザインに取り入れ、これが新たな可能性を生み出し、伝統工芸を守ることにもつながるという。またサスティナブル(持続可能)な社会への取り組みとして、日本の竹やタイの水草など自然に自生する素材を活用したデザインも発表している。
会場には、喜多がデザインした様々な椅子も展示され、それぞれが持つ特性を実際に座って体感することができる。下村学芸員は「デザインや座り心地も違うので、そこも楽しんでほしい」と話す。
「もっと便利に、もっと素敵に、もっと楽しく、暮らしたい」という喜多の欲求が、使う側の気持ちをくみ取った新しいデザインを生み出している。
◆「喜多俊之展 TIMELESS FUTURE」
会期 2021年10月9日(土)~12月5日(日)
会場 西宮市大谷記念美術館(西宮市中浜町4-38)
休館日 水曜 ※11月3日(水・祝)は開館、11月4日(木)は休館
【西宮市大谷記念美術館 公式HP】