「本当に原作に忠実なの?」「本当に映画化する意味あるの?」「いやいや、声優はぜったいこの人じゃないでしょ!」
熱心で(ときに厄介な)ファンからすると「原作」が別媒体に移植されるときには不安が付きものじゃないですか。
劇団「イキウメ」を主催する前川知大の原作を、『ビジランテ』『AI崩壊』などの入江悠が映画化。出演は岡田将生、川口春奈、緒形直人、真木よう子ほか。期待半分、不安半分。そんな観客もいらっしゃるでしょうか。
安心してください。2021年ベスト級です。
・ ・ ・
■形而上学的だまし絵である
乱雑なことを承知で、解像度の低いたとえ話をしますが、イキウメもとい前川知大の作品は「だまし絵」のような世界観を提示します。視覚的な錯覚ではなく、物語上の錯覚。形而上で矛盾を通して観客を騙して丸め込むような不安定な世界です。またしても雑な例ですが、それはまるで手塚治虫のちょっと不思議な話や、藤子不二雄の気持ち悪い短編のような。
この映画『聖地X』では冒頭から「ありえない不思議なこと」が起こります。作中人物はこの不可思議な現象と対峙して物語を歩みます。すみません、具体的なあらすじの説明を一切していませんね。申し訳ないのですが勘弁してください。僕からは何も伝えたくない。どうかその場で体験して欲しいです。
■演劇の自由さと、映画の不自由さと
川合裕之(かわい・ひろゆき)
1995年生。webマガジン「フラスコ飯店」編集長。『週刊ラジトピ』に出演中。よく道に迷う。
■映画『聖地X』
<<あらすじ>>
小説家志望の輝夫(岡田将生)は、父親が遺した別荘のある韓国に渡り、悠々自適の引きこもりライフを満喫中。そこへ結婚生活に愛想をつかした妹の要(川口春奈)が転がり込んでくるーー。