現代のSNS社会を生きる若者を描いて大ヒットしたブロードウェイ・ミュージカルの映画版『ディア・エヴァン・ハンセン』。今作を、映画をこよなく愛するラジオパーソナリティー・増井孝子さんが解説します。
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今、こんなにみんな、メンタルを打ちのめされているのか? しばし愕然とするほど、ネット社会に生きる現代の若者のリアルを描いている。同時に、子どもに何がしてやれるのか、自らに問う親たちの苦悩と迷いも描いて社会現象に。
ミュージカルとして初めて“SNS”を題材に取り上げたことでも話題になった『Dear Evan Hansen』(以下、ディア・エヴァン・ハンセン)。2015年にアメリカ・ワシントンD.C.で初演後、2016年にブロードウェイで上演が始まり、翌年、第71回トニー賞の6部門で受賞。加えて、第60回グラミー賞で最優秀ミュージカルアルバム賞を獲得、第45回エミー賞でも受賞を果たすなど旋風を巻き起こした大ヒット作の映画化だ。
制作陣には精鋭が集結。映画化にあたり、舞台版の原作者・スティーヴン・レヴェンソンが、新たな結末を加えた映画版オリジナル脚本を書いた。監督を務めたのは、作家・監督で脚本家のスティーヴン・チョボスキー。人気ミュージカルを映画化した『RENT/レント』(2005年)で脚本を担当、ディズニーの実写版『美女と野獣』(2017年)の脚本を共同執筆している人物だ。そして楽曲は、『ラ・ラ・ランド』(2016年)、『グレイテスト・ショーマン』(2017年)の名コンビ、ベンジ・パセック&ジャステイン・ポール。心に深く染み入る名曲揃い。彼らの生み出す曲の魅力も大きい。映画のための書下ろし曲も加えられている。
とは言え、『ラ・ラ・ランド』や『グレイテスト・ショーマン』のような豪華な映像はない。学園が舞台といっても『グリース』(1978年)や『フット・ルース』(1984年)のように、明るくダンサブルなシーンがあるわけでもない。ただ、本作を象徴する楽曲「You Will Be Found」が力強く訴える「顔を上げて見回せば、見つけてくれる人がいる。君は独りじゃない」とのメッセージに、閉塞感や孤独感の漂う現代を生きる我々の目から、知らず知らずのうち涙がこぼれるのだ。
主役のエヴァン・ハンセンを演じるベン・プラットは、舞台初演時からのオリジナルキャスト。3年半にわたってこの役を演じ続け、2017年11月、ロングラン公演の千秋楽を最後に舞台を降りていた。「27歳のプラットが10代の高校生を演じるには、歳をとりすぎていないか?」との声もあった中、彼以上にこの役を理解できる者はいないと映画版で再登板となったのだが、このキャスティングは、たぶん正解だった。
物語は……
『ディア・エヴァン・ハンセン』
■公開:2021年11月26日(金)TOHOシネマズ 梅田 他全国ロードショー
■配給:東宝東和
■監督:スティーヴン・チョボスキー(『ワンダー 君は太陽』『ウォールフラワー』
■楽曲:ベンジ・パセック&ジャスティン・ポール(『ラ・ラ・ランド』『グレイテスト・ショーマン』)
■出演:ベン・プラット、エイミー・アダムス、ジュリアン・ムーア、ケイトリン・デヴァー、アマンドラ・ステンバーグ、ニック・ドダニ、ダニー・ピノ、コルトン・ライアン
■全米公開日:9月24日
■原題:DEAR EVAN HANSEN
■上映時間:2時間18分
■公式サイト
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