こうして見ると、この類いの表現の背景には主に2つの要素があるようです。1つは、物の擬音から生まれたもの。もう1つは、前出の「全く忘れる」という意識に根差したもの。これらを同じような表現で使い分けていると感じます。
擬音語や擬態語を集めた『日本語オノマトペ辞典』(小学館)の「すぽ・ずぼ・ずぽ」というコラムの欄に興味深い解説がありました。
「『すぽ』は、何かが穴などにはまったり、抜けたりするときの音やようすを表す。(中略)『すっぽ抜ける』は、はまっていたものが急に外れたり、力が完全に抜けること、記憶からすっかり抜け落ちる(=まったく忘れる)ことなどをさす語で、『すぽっと』抜ける、の意でできた複合語と見てよいだろう。『すっぽ抜け』はこの語の名詞形、ほかに『すぽん抜き』(一気に引き抜くこと、他人を出し抜くこと)という語もあるようだ。(以下省略)」
日本語は奥深いもの。表現する言葉や音は同じでも、意味は異なることがある……難しいです。でもそのぶん本当に面白い。改めてそう感じました。
言葉は時代とともに、その意味も使い方も変化します。「ことばコトバ」では、こうした言葉の楽しさを紹介していきます。
※1 「目的の所(コース)から外れる」の元の表記は「目的の」と「所」の前に白三角記号。
(「ことばコトバ」第32回 ラジオ関西アナウンサー・林 真一郎)