「ききわけのない女はビンタ」……令和の現代では絶対に歌詞にできないであろう昭和ポップスのジェンダー観。シンガーソングライター、音楽評論家の中将タカノリとシンガーソングライター、TikTokerの橋本菜津美が沢田研二、奥村チヨの楽曲を通して昭和ポップスのトンデモな世界観に迫ります。
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【中将タカノリ(以下「中将」)】 最近でもたびたびジェンダー……男女差別の問題が話題になりますが、もちろん昭和でも同じようなことがありました。もともと日本にあった男尊女卑の感覚が少しずつフラットになっていく推移が当時のヒット曲から読み取れます。
【橋本菜津美(以下「橋本」)】 そんなにジェンダーについて歌った曲があるんですか?
【中将】 もちろん直接的な表現じゃないですけど、あえて時代のジェンダー観に食い込むようなキーワードを歌詞にちりばめることで話題になった曲はたくさんあるんです。たとえば1979年にリリースされた沢田研二さんの「カサブランカ・ダンディ」。
【橋本】 「ききわけのない女の頬を 一つ二つはりたおして」……攻めすぎです(笑)。今なら絶対ダメな表現ですね。
【中将】 これは男性が女性をビンタすることがNGになってきた……つまり男女の差異が無くなってきた当時の風潮を歌った歌詞なんです。サビの「ボギー あんたの時代は良かった」というのはダンディーな魅力で知られた往年のハリウッド俳優、ハンフリー・ボガードの世界観へのリスペクトですね。
【橋本】 今20代の私の感覚からすると男性が女性に手をあげるなんてカッコ悪すぎるんですけどね……。そんなこと本当にしてる人がいたら引いちゃいます。
【中将】 そう思うでしょ? でも男性が女性をビンタする風潮って、僕が知る限り90年代までは普通にありました。いつでもOKというわけじゃないけど「やむを得ないこともある……」みたいな。今も活躍する某男性アイドルも、当時そんなこと言ってましたね。
【橋本】 ひえ~……。私の周囲ではビンタを含めて女性が男性から暴力を受けたっていう話はほとんど聞かないですね。でも言葉の暴力は今でもたくさんあるかもしれません。「ブス」とか言っちゃいけないことを普通に言ってしまう人はいますね。