「ゆっくり地震・ゆっくりすべり」とも呼ばれる「スロースリップ」現象が注目されている。陸のプレート(岩板)と、その下に沈み込む海洋プレートの境界面が”ゆっくりとずれ動く”現象のことだ。この研究を進めると、2050年までに発生の確率が70~80%と予測される南海トラフ巨大地震の短期・中期予測につながる可能性があるのではないかとの見方もある。「はりま地盤・地震研究会」代表で日本地震学会会員の西影裕一さんに聞いた。(取材協力・ 地震調査研究推進本部・京都大学防災研究所・第五管区海上保安本部)
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地面がグラッと揺れたら、地震が起きたと感じる。なぜか?通常の地震は断層が”高速”で岩盤中をすべり、地震波を放出するからである。一方で、スロースリップ(ゆっくりすべり)という、文字通り「ゆっくりすべる」現象が2000年頃発見された。スロースリップはスロー地震と呼ばれる現象の1つ。通常の断層に比べ、まさに断層がゆっくりと滑るので、私たちは揺れに気づかず、直接被害が出ることはない。
2011年、東日本大震災を引き起こした東北地方太平洋沖地震は、スロースリップの広がりによって、東北地方太平洋沖地震の破壊開始点へ集中して力が作用し、本震の発生を促した可能性があるといわれている。
現在、他の大規模地震の前震活動について調査が進められており、本震の破壊開始点付近でスロースリップが起こったのではないかと思われる事例が多数見つかった。
国では複数の研究機関が地表の動き(地殻変動)を監視している。それらのうち、国土地理院と国立大学法人が中心となって全国約1400箇所に電子基準点(GNSS連続観測点)を設置している。
以下の写真1、左側は兵庫県姫路市安富町に設置されている電子基準点。外観は高さ5mのステンレス製ピラーで、上部にGNSS衛星からの電波を受信するアンテナ、内部には受信機と通信用機器等が格納されている。右側には産業技術総合研究所が地下水の観測施設を設置している。これは岡山県美作市から兵庫県三木市に至る「山崎断層帯」の安富(やすとみ)断層を調査するためで、地震発生と地下水変化の関係を調査している。