あなたは、滋賀県彦根市に伝わる「カロム」というゲームをご存知ですか? おはじきとビリヤードを掛け合わせたようなボードゲームで、小学生から大人まで、誰でも楽しむことができるのが魅力です。彦根市での「カロム」の認知度はほぼ100パーセントで、誰もが遊んだことのある身近なゲームですが、それ以外の地域では、その名前はほとんど知られていません。このご当地ゲーム「カロム」について、日本カロム協会事務局長の安居輝人さんに聞きました。
――カロムの遊び方を教えてください。
カロムは、60センチ×60センチの木製の盤の上で行うボードゲームです。盤の中央に輪になるように、赤色と緑色の球をそれぞれ交互に12個ずつ並べ、自分の組の色の球を「ストライカー」と呼ばれる手持ちの球を弾いて盤の四隅にあるポケットに落とします。自分の色の球をすべてポケットに落としたのち、中央に配置した「ジャック」と呼ばれる球を先に落とした組の勝ちです。2人でも4人でも遊べて、ただ指で球を弾くだけでなく、運の要素と戦略が必要になる奥の深いゲームです。
――なぜ、滋賀県彦根市だけでここまで盛んに遊ばれているのでしょうか?
もともと、カロムはおよそ800年前にエジプトで誕生し、ヨーロッパや中国に伝わったものだと考えられています。日本には明治時代頃に伝わり、かつては日本中で遊ばれていました。実は、京都市の一部で遊ばれている「オニム」や、大阪の一部に伝わる「闘球盤(とうきゅうばん)」など、「カロム」に似たゲームは全国に点在しているのですが、なかでも滋賀県彦根市で現在まで盛んに遊ばれている理由は、3つあると考えられています。
1つ目は、建築家で宣教師のウィリアム・メレル・ヴォーリズが来日の際に広めたからという説です。滋賀県近江八幡市に住まい、キリスト教を布教するなかで、カロムを持ち込んで地域の人と遊んでいたという話があるのですが、これはヴォーリズの妻で教育者でもあった満喜子の教え子によって否定され、地域のズレもあるため、微妙なところではあります。
2つ目は、昭和初期に彦根からカナダに移住した人々によって逆輸入されたという説です。現在でもカナダに伝わる「クロックノール」というボードゲームがカロムとほぼ同じルールであることなどから、移住者たちが彦根に持ち帰ったことで、ここまで広まったという話があり、カロムの研究者の中でも有力視されています。
3つ目は、彦根市の地場産業である仏壇作りの職人たちが、カロム盤を製造していたからという説です。かつて彦根藩の城下町であったこの地域で鎧を作っていた職人たちが、戦の少ない平和な時代にその技術を仏壇作りに応用し、さらに、その技術を活かしてカロム盤の製造を行いました。現在でも、彦根市の仏壇職人の中には、カロム盤を製造・販売している人もいます。彦根市を中心にここまでカロムが盛んになったのは、地域の産業との密接なつながりがあるからだと考えられています。