けれど、この町にいてはなかなか夢にはたどり着かない。ある程度の段階できちんとしたコーチについたほうが良いと考えたリチャードは、有名なプロのコーチにアプローチを試み、町を脱出することに成功する。
80~90年代のプロテニス界は、まだまだ白人の、それも富裕層に属する人々の活躍の場だった。その中で、ビーナスとセリーナのウィリアムズ姉妹は、どのようにして世界最強のテニスプレーヤーになったのか?
強引で、自分のやり方を信じて突き進む教え方、自分の思い通りに人をコントロールしようとする姿勢が、“専制君主”につながる面もあるということか、リチャードは“キング・リチャード”と呼ばれていた。それがこの映画の原題なのだが、今回は『ドリームプラン』という邦題がついていてよかった。基本的に、横文字の邦題は紛らわしいのでやめてほしいと思っているのだが、もしこれが「キング・リチャード」というそのままのタイトルなら、壮大なコスチュームプレイかと勘違いしてしまっただろうから……。
第79回ゴールデングローブ賞で主演男優賞を獲得したウィル・スミス。まもなく発表の第94回アカデミー賞では、作品、主演男優、助演女優(アーンジャニュー・エリス)、歌曲(ビヨンセの「ビー・アライブ」)、編集、脚本の6部門でノミネートを果たすなど、注目の話題作。親が子どもを、そして子どもが親を信じる心と家族愛。“夢”という壊れやすい存在は、みんなで大切に守り育てなければ実現しないもの……など、天才の育て方と同時に、心に響くポイントも多い。
存命中の人物を演じるのは難しいと思うが、トレーニングを積んだシドニーとシングルトンのテニスの腕前は素晴らしい。
何度もグランドスラムを制し、オリンピックでも二人合わせて5個の金メダルを獲ったその後の活躍を知っていてなお、幼少期から少女時代、その頑張りが報われますようにと心からの声援を送りたくなり、そして2時間24分という長さながら最後まで飽きさせないのは、レイナルド・マーカス・グリーン監督の演出の腕なのだろう。(増井孝子)
※ラジオ関西『ばんばひろふみ!ラジオdeショー!』、「おたかのシネマdeトーク」より
『ドリームプラン』
2022年2月23日(水・祝)公開
製作:ウィル・スミス、ティモシー・ホワイト、トレバー・ホワイト、
セリーナ・ウィリアムズ、ビーナス・ウィリアムズ
監督:レイナルド・マーカス・グリーン
脚本:ザック・ベイリン
撮影:ロバート・エルスウィット(『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』)
出演:ウィル・スミス、アーンジャニュー・エリス、サナイヤ・シドニー、デミ・シングルトン、トニー・ゴールドウィン、ジョン・バーンサル
配給:ワーナー・ブラザース映画
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