【中将】 カルーセルさんは子どもの頃から性意識は完全に女性だったそうで、お化粧遊びするのをお父さんから厳しく叱られたり、同級生から「おとこおんな」とからかわれたりしていたそうです。そんな悩みのなか、芸能界で活躍している美輪さんのことを知ったんですね。やがて家出し、ゲイバーで働いたりしながら1968年に芸能界に飛び込み、1973年にはモロッコで性転換手術も受けます。
翌年には「夜の花びら」というレコードを出しているんですが、歌詞が「動かないで お願い 二人で一つの躰(からだ)」という感じで……ドロドロにエロティックですが時期的にも意味深なものを感じますね。
【橋本】 女性の身体を手に入れたメモリアルの曲ということでしょうか。今ほどオープンな時代じゃなかっただろうし、それにかける思い入れもとても大きかったでしょうね。
【中将】 現代でも不自由や疎外感を感じているLGBTの人は多いと思いますが、少なくとも今ある「LGBTを受け入れよう」という空気は美輪さんやカルーセルさんが矢面に立って活動してきたからこそのものだと思います。
そんな流れの中で、1980年頃になると自分の性的な背景を武器にして芸能界で活躍にする人が増えていきました。その代表格が今、大阪ミナミでショーパブ「べティのマヨネーズ」を経営しているべティさん。デビュー曲の「I LOVE YOUはひとりごと」(1981)。ポップな曲ですが、間奏の語りがいかにもオネエ風で面白切ない感じに仕上がっています。
【橋本】 この感じ好きです! 今あるニューハーフ的なノリはこのあたりから始まったんでしょうか。お店にも行ってみたくなりました!
【中将】 楽しいお店なのでぜひぜひ! この曲は事務所が同じだった縁でサザンオールスターズの桑田佳祐さんが作っているんですが、実はニューハーフという言葉を作ったのも桑田さんなんです。この言葉が大流行して、それまでLGBTの人たちを指した「ゲイボーイ」「シスターボーイ」などの呼び方は廃れていきます。
【橋本】 えっ! すごい! さすが桑田さん、時代を作ってますね!
【中将】 「I LOVE YOUはひとりごと」を売り出すキャッチコピーとして考えたそうですが、さすがに言語的なセンスを感じますね。
べティさんと同時期に人気が出た人に松原留美子さんがいます。1981年に六本木のイメージポスター「六本木美人」に起用されるんですが、直後に男性であることが発覚するというショッキングな出来事で注目され、映画『蔵の中』のヒロイン役に抜擢されたりレコードを出したりしています。デビュー曲の「一夜恋(ひとよこい)」(1981)はかわいいジャケットなのに意外な低音ボイスで、なんかグッとくるものがあります。