そんな竹下さんにとってのピンチは、新型コロナウイルス。主軸の駅ナカ販売の売上が緊急事態宣言での電車利用者激減の影響で半減した。今後のコロナウイルスに対する不安もあって、駅ナカでの販売を一度やめることに。当時それは売上がゼロになることを意味したが、「コロナを憎んでも仕方がない、逆にこの状況からできることはないか」と発想の転換を図った。
「もともと私はフードロスというところから農業の流通に入ってきたのですが、農家にヒアリングに回ると、彼らの課題が規格外品を捨てていることではないことがわかりました。いいものを作っても適正な価格で販売できていないんです。それに想像していたよりも所得が年収300万円台で低くて。しかも人件費をかけられず1人で農作業をされる人が多いので、生産量に限界がある。流通事業では、収益の最大化が無理だと気づきました」
そこで竹下さんは次の事業で、農家の収入を年間200万円向上させることを目標にし、収穫体験や農業体験など、野菜販売ではなく“体験”を販売することで、生産者に副収入を作れないかと考えた。神戸の農家の特徴は、産地と比べて土地が狭く、効率が悪いこと。だが、有機でこだわって作っている人が多く、消費地と近い。産地と同じ戦い方をしても勝てないので、都市近郊である利点をいかした収穫体験を思いついた。
「いちご狩りとにんじん狩り、どっちに行きたいですかと並べたら、絶対いちごじゃないですか(笑)。だから、野菜の収穫体験を週末レジャーの選択肢に入れてもらえるように、ゲーム性をプラスアルファした企画を考えています。初めに収穫のミッションカードを渡すんです。例えば15センチ以上のカリフラワーを探してこいとか、じゃがいも5個掘り出してこい、というような。野菜をただ取って帰るだけだと、子どもが野菜嫌いだとなかなか参加してもらえない。でも、宝探しのように子どもが楽しんで収穫体験ができるんだったら、親が子どもを誘う理由ができると思いました」
実際試しにやってみたところ、子どもだけでなく、親も一緒に泥だらけになりながら野菜を探して楽しんでいたという。
「今後はまずはこの収穫体験の事業を本格化していきたいと思っています。1番大きな目標は、やっぱりみんなが毎日おいしいというもので満たされる、そんな社会がいいなと思っていて。食べられずに死んでいる人がいる、そんな人をなくしたいなと思っていますし、よりいいものを作ろうという人がちゃんと評価されるビジネスをつくっていきたいと思っています」
まだまだ成長が楽しみなタベモノガタリ。2、3年後にはどんな花を咲かせているのだろう。若き竹下さんの挑戦を応援したい。