【橋本】 中将さんにとって歌がうまい人って、他にどんな方がいらっしゃるんでしょうか?
【中将】 いろんな方がいるんですが、尾崎さんと同時代に活躍した方だと布施明さんが代表的じゃないでしょうか。若い世代の人にとっては「君は薔薇より美しい」(1979)みたいな声を張り上げていかにも声量ある感じの曲が有名かもしれませんが、僕があえて聴いてほしいのは「そっとおやすみ」(1970)。
【橋本】 声がまだお若くてイメージ変わります! でも当時からすごい歌唱力ですね!
【中将】 ささやくように細く甘い声で歌っているんですが、これができるのは声量があるからですね。布施さんはもともとカンツォーネなど西洋の歌曲を勉強されていて、歌手デビューするにあたって歌謡曲的な歌い方を研究されたそうです。だからなのか、表現の幅がとても広いですね。
日本のポップスを語る上で演歌も無視できませんが、僕はこのジャンルでは五木ひろしさんが圧倒的に歌がうまいと思っています。たとえば「夜空」(1973)。
【橋本】 やっぱ演歌っていいですよねぇ~。
【中将】 五木さんは1971年に発表した「よこはま・たそがれ」が大ヒットして以来、長い人気を保っている演歌歌手の大御所ですが、この人が登場する以前と以後では演歌の歌唱法は大きく変わっていると思います。
【橋本】 えっ! そうなんですか? 私はこういう歌い方がいかにも演歌的なんだと思ってました……。
【中将】 五木さんは1948年生まれなので、演歌、民謡だけじゃなく、ポップスやロックのようなモダンな音楽性もしっかり身に着いてる世代。1970年代にラスベガス公演をしたときは当時流行のディスコナンバーもカバーしたりしています。
この「夜空」にしてもキメが多用されていて相当ロックンロール、ロカビリー的な曲なんですが、五木さんはそういうリズム感や細やかなポップス的な歌唱表現を本格的に演歌に持ち込んだ先駆けの人だと思います。ちょっと古いものになりつつあった演歌をニューミュージックやロックと同等に聴ける音楽に進化させたんですね。