乗客106人が犠牲となったJR福知山線脱線事故から17年を前に、遺族や有識者が、鉄道や航空などの重大事故で企業の刑事責任を問う「組織罰」の必要性を訴えるシンポジウムが16日、大阪市内で開かれた。
事故で長女を亡くした代表の大森重美さん(73・神戸市北区)は「被害者の死を無駄にしないためにも、法制化の必要性を強く感じている」と語った。
組織罰は、鉄道・航空事故などの際、運行する企業など法人自体に刑事責任を負わせる法律。イギリスの『法人故殺法(ほうじんこさつほう)』をはじめ、フランスなどでも法律が整備されている。福知山線脱線事故をめぐっては、JR西日本の歴代4人の社長がATS=自動列車停止装置の整備について企業の幹部として指示を怠ったなどとして、業務上過失致死傷罪で起訴されたが、いずれも「事故を予測できなかった」などとして、2017年6月までにいずれも無罪判決が確定した。
現在の日本の法体系では、こうした大事故での責任は民事訴訟でしか問えない。日本の場合、刑法の「業務上過失致死傷罪」は個人が対象で、法人には適用されない。そして個人については「予見可能性」=(事故を予測できたかどうか)がなければ罪に問えず、法人も罰する仕組みがない。 こうしたことから、遺族らは 「組織罰を実現する会」を2016年に結成。法人と個人、ともに処罰する「両罰規定」を導入した特別法の制定を求めている。
大森さんは福知山線脱線事故をめぐって業務上過失致死傷罪に問われたJR西日本の歴代社長4人の無罪が確定したことを踏まえ「会社責任を追及して体制を変えることが事故の抑止につながる」と述べた。
当初は事故車両の運転士(死亡)のミスであるとの声が大きかったが、大森さんはそうは思わなかった。事故原因は、JR西日本の安全に対する間違いやゆがんだとらえ方だと疑わなかった。「組織罰」を制定したいという原点はそこにある。建設関係の仕事に従事していた大森さんは、現場で事故が起きるリスクは十分理解している。脱線事故以来、JR西日本の体質に変化があったことも感じている。事故を減らすことはできたかも知れない。しかし、まだまだ道半ば。JR西日本は加害企業として、額に汗して、なお真摯に安全対策に取り組んでほしい、と願う。「17年間、前を向いて生きてきた。気持ちの切り替えもできるほどの心の余裕もできた。ただ、娘の死を無駄にはしたくない、何らかの形でけじめが必要」と力を込める。