普段は、スタジアムの運営業務にあたっている菊地さん。今回、ノエビアスタジアム神戸がワクチン大規模接種会場となることは、部内でも想定していたという。「実は(この事業の前に)コロナ禍でのスタジアムの新しい使い方みたいなものについて、部のメンバーでけっこうミーティングをやっていました。『PCRの検査を施設で受け入れられないか』ということや、それこそ『ワクチン会場になったらどうなるんだ』などの話しもあがっていたんです」。ただ、ノエビアスタジアム神戸は市の施設で(※運営管理はヴィッセル神戸が担当)、連日多くの人が集まるとなると周辺住民への配慮も必要になるなど、難題もあった。
検討していた矢先、本格的にノエビアスタジアム神戸が大規模ワクチン接種会場になる話が届く。その翌日にはすぐ神戸市や兵庫県にアポイントをとり、親会社の楽天グループのネットワークも活用しながら医療従事者を確保するなど、スピード感をもって行動に移していく。「(連絡を受けた)その瞬間に、接種する場所のいくつかの候補はなんとなくイメージができていました。そのうちの1つを実際に実現したという形です」。
運営協力に対し「『無理でしょ』みたいなものはまったくなかったです」という菊地さん。それには、ヴィッセル神戸ならではの社風もプラスに働いたようだ。「急に何か起こることやイレギュラーな依頼は、なにかしら想定しながら動くようにはなっていますね。そういうことがほかのクラブより多いかもしれませんが(笑)。実際にそういうシーンを前向きに楽しみながらやれるというのは、ヴィッセルの強みの1つかなと思いますし、楽天グループ全体のそういうマインドの良さかなと思います」。
大規模会場ということは、それだけ多くの人々がワクチンを接種しに来る。入場から接種終了、退場までをスムーズに運ぶためのタスクも求められる。「ほかに前例がない状態で、規模自体もけっこうな(多くの)人数の規模だったので、まずは試合と同じ形で、滞留をさせず、医療行為をリスクなく終わって、お帰りいただくところまでをいかにスムーズに流すかということに注力しました」(菊地さん)
ワクチン接種は、ホームゲーム開催時も並行して実施。菊地さんらスタジアム運営メンバーは、試合業務を手がけながらワクチン業務も行っていたが、部内で役割分担を行い、「両方とも滞らないような体制だけは作らせてもらっていた」ことで、どちらの運営も可能にした。とくに人の流れで気を付けたのは、「滞りそうな受付の段階だったり、出口の段階……要所要所をまずはきれいに流していくこと」。そこは、通常の試合運営でのオペレーションがうまくいかせたという。
最大で28に及んだ団体の連携やノエビアスタジアム神戸での取りまとめでは、スタジアムの指定管理を担うヴィッセル神戸、とりわけその窓口役となる菊地さんらへの負担も大きかったと思われる。しかし、「主としては神戸市さんの大規模接種会場になりますので、まずは神戸市さんとうまく連携しながらやり取りしていくというところ。そこは、クラブのホームタウン活動などで、常日頃からやり取りする部分が非常に多かったので、連携が取りやすかったというのは、すごくあります」と、菊地さん。ヴィッセル神戸はもともと神戸市のクラブとして歩んだ経緯もあり、地元との太いパイプが円滑な運営業務につながった。
※2022年5月20日(金)公開予定「関係者が語る大規模ワクチン接種会場の運営秘話(2)」に続く