「水の中に入りましょう」(静香)
早速、静香コーチが指示しますが、小鳥遊は踏ん切りがつかず、プールサイドで躊躇しています。
「あ、手を洗うのを忘れてた」(小鳥遊)
「小鳥遊さん!」(静香)
「自分のタイミングで入りますから」(小鳥遊)
「小鳥遊!」(静香)
主婦の1人が小鳥遊の背中を押し、小鳥遊はプールの中に落ちました。プールの深さは腰くらいまでなのですが、小鳥遊は大騒ぎ。小鳥遊は顔を水につけることができないほどのカナヅチなのですが、専門の哲学をフル稼動して頭でっかちな言い訳ばかりしています。
「子どもみたいなこと、言わない!」(静香)
静香コーチは、まず顔を水につけることから教えます。人は誰でも胎児の時は母親の羊水の中にいたのだから、とコーチに言われ、小鳥遊は少しだけ納得できたような気がしました。でも簡単には水嫌いを克服できません。
「手の平にすくった程度の水の量であれば、圧倒的に僕の方が有利ですが、この大量のプールの水には勝てる気がしないんです」(小鳥遊)
「勝ち負けで考えるのではありません。水に親しんで身を委ねるんです」(静香)
静香コーチが優しくかつ厳しく指導する水泳教室へ、小鳥遊は通うようになります。実は小鳥遊はバツイチで、元妻・美弥子(麻生久美子)と生活していた頃、水に恐怖を感じるようになる決定的な出来事があったのです。
一方、静香コーチもまたトラウマを抱えていました……。
原作は『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』などで知られる髙橋秀実(たかはし・ひでみね)のエッセーです。映画『舟を編む』の脚本を手がけた渡辺謙作が脚本と監督を務めています。
主人公のカタブツな哲学の先生・小鳥遊を演じるのは長谷川博己。主人公に水泳を教える静香コーチは綾瀬はるかです。
長谷川は、作品の中でカナヅチの役ですが、実際にはスイスイと泳げるそうです。一方、綾瀬は運動神経がいいとして知られますが、水泳はあまり得意でなかったそうです。
この映画の役作りのため、長谷川は“下手に泳ぐ練習”をしました。下手に泳ぐために、水泳指導の先生から教わった逆の動きをするなど自分なりに工夫したということです。水を嫌いになる感覚が難しかったそうで、本人は「僕自身は泳げるし、水も怖くなかったので、恐怖をおぼえるのはどういうことか想像するのが大変でしたね」と語っています。
また綾瀬は公開直前イベントで「私は9割がプールでの撮影だったので、監督もスタッフもみんな水着で、なんだか部活の延長で映画ができあがっていった感じでしたね」と撮影当時を振り返りました。週に2回のペースでクロールを練習していたところ突然、監督から「4種目やって」と言われてさらに練習を頑張ったそうですが、結局そのシーンは使われなかったということです。