当時のマヤカンの所有者は、神戸市や警察・消防から「管理をきっちりしてほしい」と再三求められていたそう。
問題だったのが、不法侵入。学生センターだった頃も「廃墟のような場所に泊まれる」と人気だったその佇まい。廃業後、廃墟マニアの“聖地”となり、入り口をふさいでも破壊して侵入されたり、撮影などのため内部でろうそくを使われたりすることもあった。崩落による事故のリスクも負っている。不法侵入による事故は、所有者の責任になってしまう。
所有者は、この建物を“迷惑物件”だと思っていたという。
そこで、自身も廃墟マニアである前畑さんは、所有者に「マヤカンを大事に思っている人たちが大勢いる。ぜひ自分たちの団体で手伝わせてほしい」との思いを伝えた。
J-heritageで保全、一帯の活性化に取り組む摩耶山再生の会で活用、という協働事業が始まった。
■「廃墟の女王」の誕生
まず手を付けたのは、不法侵入など「負のイメージの払拭」。そのために約300万円かけてセキュリティ会社をつけた。さらに、2017年に登録文化財へ申請することを目指し、リターンに廃墟見学などを盛り込んだクラウドファンディングを実施。349人の支援者から、目標金額500万円を大きく上回る727万7千円が集まった。それらの甲斐あって、2021年、廃墟としては異例の「国の登録有形文化財」に登録された。
「摩耶山・マヤ遺跡ガイドウォーク」が始まったのは、2017年3月。元々摩耶山のケーブルカーやロープウェイの利用者を増やしたいと考えていた摩耶山再生の会では、マヤカンを活用する案があった。そんな中、前述の取り組みが追い風となり、ガイドウォークが実現したのだった。
ガイドウォークでは、本来なら入れない山道を歩き、廃墟のすぐそばまで近づける。始めてみると1回20人限定のウォークに応募が殺到。サーバーがダウンする事態になった。想定外なことに、海外からのアクセスも多かった。壊されようとしていたこの廃墟に、大きな需要があったのだ。
そしてマヤカンは「廃墟の女王」、一帯に点在する歴史遺構は「マヤ遺跡」と呼ばれ、多くの人が関心を寄せる存在となった。
■マヤカンの今、そしてこれから
現在、摩耶山再生の会主催のガイドウォークは、月に1回のペースで実施されている。開始当初、廃墟マニアが多かった参加者は、現在ライト層(軽い興味からの参加者)が増えているという。VR(バーチャル・リアリティー=仮想現実)を使った内部のオンラインツアーや、近隣ホテルでの宿泊をセットにしたプランの実施など、新たな展開も試みている。
一方で、課題もある。