「欠氷」
これ、何と読むかご存知ですか? 「かきごおり」です。私も初めて見ました。
店頭などで目にするのは「かき氷」という表記ですが、広辞苑第七版(岩波書店)にはこうした表記でした。意味はというと、「(1)氷を欠きくだいたもの。ぶっかき。(2)氷を削って雪状にしたものに、シロップなどをかけたもの。こおりみず。こおりすい。ゆき。」などとあります。
一方、新明解国語辞典第八版(三省堂)には、「欠(き)氷」とあり、意味として「(1)氷をかんななどで粒状に削ったもの。氷水(コオリミズ)。みぞれ。(2)氷を細かく割り砕いたもの。〔関西では「かちわり」、東部方言では「ぶっかき」〕」とありました。
調べてみると、地方や時代によって呼び方が異なっていることがわかりました。「かき氷」について最古の記述かどうかはわかりませんが、「削り氷(けずりひ)」という表現が、平安時代中期の随筆「枕草子」(清少納言)に載っていました。「削り氷」とは「氷を削り、雪状にしたもの。(季語 夏)。枕草子三九『―にあまづらいれて、あたらしき金椀(かなまり)にいれたる』」(広辞苑)とありました。
ちなみに「あまづら」とは、漢字で「甘葛」と書き、つる草の葉などを煮詰めて作った汁で、今でいう「シロップ」とでもいうのでしょうか。金属のお椀に削った氷を入れて、そこに「あまづら」をかけていた。現代と同じような楽しみ方をしていたようです。しかし当時、「氷」はとても貴重で、めったに手に入らないものだったため、召し上がったのはほんの一握りの人たちだったのでしょうね。清少納言は食べたのでしょうか。
さて、冒頭で紹介した「かちわり」。これは甲子園球場の夏の高校野球ではおなじみです。透明の袋の中に氷がゴロゴロと入っていて、溶けた水をストローでいただく。私も取材中によく買い求めました。この「かちわり」、広辞苑には「搗ち割り」と表記があり、「(主に関西地方で)氷を小さく砕いたもの。」とありました。
一方の、「ぶっかき」は「打っ欠き」と書かれていて「ぶっかくこと。またそのもの。「氷のー」とありました。ちなみに「ぶっかく」とは「たたいて細かくする。」(広辞苑)こと。表現は異なりますが、同じような意味です。
他にも「氷水(こおりすい・こおりみず)」「夏氷(なつごおり)」などの表現もありました。最近では「フラッペ」「クラッシュアイス」などの表現もありますが、個人的には「かき氷」などの表記の方が冷たく、より強く引き寄せられると感じるのは私だけでしょうか。
夏は始まったばかりです。「欠氷」=かき氷をいただいて、熱い、いや暑い季節を乗り切りましょう。
言葉は時代とともに、その意味も使い方も変化します。「ことばコトバ」では、こうした言葉の楽しさを紹介していきます。
(「ことばコトバ」第61回 ラジオ関西アナウンサー・林 真一郎)