――国産品の特徴は。
【田中常務】 結局、小ロット多品種で、なおかつ品質の良い靴下を作れる企業だけが国内に残っているわけだが、それだけに国産品は、柄の細かさや美しさ、肌触りやはきやすさ、丈夫さなどあらゆる面で品質が世界一だと言える。当社も、足にぴったりフィットする、いわば皮膚のような靴下を作るという理想を常に追い求めている。日々、我々の靴下をはいた人がどのように感じるかという1点を考えながら生産している。
――海外製3足1,000円と国産1足2,000円との競争。
【田中常務】 勝負しているという意識は全くない。良いと思って買う人にはもちろん継続して買ってほしいが、なかなかその境地に達しない人もいらっしゃる。そんな人には、どこかの機会で一度は当社の靴下を試してもらいたいので、例えば「靴下の日(11月11日)」前後に毎年、組合と加古川商工会議所とで「靴下まつり」を催し、普段より廉価で地元メーカーの靴下を並べてアピールさせてもらっている。今年も11月10日に加古川駅前のプラザホテルで開催する予定。26回目になるが、毎年お客が増えていると実感している。
また、輸入品との差別化は完全に済んでいる。現下の円安で、製造委託先の国内回帰という話もちらほら出ているが、私としては今さら請け負う気もないというのが本音。お世話になってきた顧客に対して、きっちりと良いものを作り、なおかつその延長線上で新しいファンを増やしていくようにしたい。
――創業100周年で立ち上げた自社ブランドは話題になった。
【田中常務】 ブランド名は「TANAKA SOKKEN」(ソッケンはオランダ語で「靴下」)。ハンドリンキングと言って、つま先の継ぎ目を職人が一目ずつ手作業で拾って接ぎ合わせることにこだわった。そうすることで継ぎ目が膨らまず滑らかになるので、最高のはき心地に仕上がっている。加古川で国産高級靴下を作っていることを発信したく、第1弾製品には100年前に地元の高御位山から飛び立ったグライダーの刺しゅうをあしらった。提携先サイトや百貨店のポップアップストアなどで販売し、好評を得ている。
【田中常務】 医療に従事する知人との対話でいろんなニーズがあることを知り、次は介護・医療向けで兵庫県立大看護学部と共同研究することを予定している。例えば夏場の病院は、忙しく走り回っている看護師のために冷房温度を低めに設定しているのだが、これが寝たきりの患者にとってはものすごく寒い。そういう人のために足の冷えを緩和する靴下を作ってほしいという依頼が最初にあった。次に、動けない人に靴下をはかせる際、足の爪が引っかかって爪が剥がれたり割れたりするので、爪が引っかからない高度な技法で縫製したり。ほかにも付着したコロナウイルスを減少させる抗ウイルス繊維を使った靴下を作ったり、立ち仕事で足がむくみがちな看護師向けに最適な着圧の靴下を作ったり。