世界や日本の各地に点在する巨岩。この夏の旅行や帰省で訪れた人もいるかもしれない。巨岩は、名所や景勝地、その地の名物として知られるほか、古代からの信仰の対象、そして「遺跡」とされるものも……。
兵庫県内にも、そのような岩が複数存在する。今回は、芦屋、西宮、神戸・六甲山の巨岩を通して、岩にまつわる歴史や、それらを巡る際の注意点・エチケットについても紹介する。
◆弁天岩(芦屋市)
芦屋市から「芦有ドライブウェイ(※1)」芦屋ゲートへと向かう県道344号線奥山精道路(通称:芦有道路)。六甲山上からの夜景観賞や観光、有馬温泉へ向かう人など多くの人が利用するこの道路に、突如巨大な岩が見える場所がある。
巨岩の名は「弁天岩」。すぐそばの芦屋川にある「フカ切り岩」とともに雨乞いの伝承が残り、江戸時代まで雨乞いの儀式が行われていたという岩だ。芦屋神社が管理しており、境内の水神社と同じ水神が祭られている。多くの人は、岩の名前や伝承など気にすることなく通り過ぎているかもしれない。
このような、古くから信仰の対象となっていた岩は「磐座(いわくら)」と呼ばれ、全国に存在している。
この磐座を愛好し、研究している団体「イワクラ学会」(事務所:大阪市北区)の理事で“イワクラハンター”の平津豊さんに話を聞いた。
まず、磐座とは何か。狭義の磐座は「古代祭祀が行われていた場所」だという。古代、人々の神に対する信仰は、礼拝という単純な形式に始まった。それが集団的な祭祀として発達するとともに、神霊の降臨を迎え、その鎮座を仰ぐ設備として表現されていった。この場所が「神奈備(かんなび)」「神籬(ひもろぎ)」「磐境(いわさか)」、そして磐座であり、古墳時代以降には常設の社殿を持つ神社として発展していく。簡単にいえば、神社の元だ。
イワクラ学会では、その狭義の磐座に「人の手が加わった岩石遺跡」を加えた広義の磐座として、「イワクラ」というカタカナ表記の呼称を設けている。ここには、信仰対象以外の遺跡も含む。
◆越木岩神社(西宮市)
古い神社の場合、境内や付近の山中に信仰の大本となる磐座が残されていることが多い。西宮市の「越木岩神社」の境内にある甑岩(こしきいわ)は、室町時代の山崎宗鑑の歌や江戸時代後期の『摂津名所図絵』にも登場するなど、古くから知られた磐座の一つだ。複数の岩が組み上げられたような形状をしている。