■自分を責める避難者
ポーランドの首都・ワルシャワには12日間滞在し、戦禍を逃れてきた人たちのインタビューや撮影を行った。その数は100人近くにのぼる。最も印象的だったのは、避難者が戦地に家族を残してきたことへの罪悪感を感じていることだった。
スマートフォンで毎日家族と連絡を取る中で、爆撃の音が聞こえる。「安全圏にいるのに、ここで過ごしていていいのか」と自らを責める気持ちに、先の見えない将来への不安が押し寄せる。
国境を越えて避難してきたばかりのウクライナ人の家族の表情、子どもたちは少しはにかんだ表情をしているが、大人たちには不安感がにじむ。避難先のワルシャワでスマートフォンを握りしめた女性が一点を見つめている。どこに行くのかも決めていない…人々の表情からウクライナの置かれたリアルな姿が伝わってくる。
■生きる選択肢のない「ロマ」の人々
展示された21点のポートレートのうち、目を引くのは、身分証を持たないため、ウクライナから出国できなかった少数民族「ロマ」の避難者。国内に約40万人が生活しているとされる。
ウクライナ国内でもヨーロッパ各地でも、避難者は駅や国境で出会うが、「ロマ」は必ずしもそうではなく、人々の目に見えない場に追いやられ、支援の手が届かない。
「ロマ」は文化・生活様式、肌の色の違いなどから歴史的に迫害を受け、ジプシーと呼ばれていた。1944年にはアウシュビッツ絶滅収容所に収容されていた多くが、ナチス・ドイツのホロコースト(大量虐殺)の犠牲になった。
「ロマ」は住民登録ができずに、パスポートなどの身分証を持っておらず、ウクライナ国外への避難ができない。避難場所も別の場所に設定され、「物乞い」呼ばわりされる。チェコに設けられた避難所では、鉄格子や有刺鉄線が張られた空間に追いやられ、世間から見えにくい存在になっているのだ。
中には、「避難所に着いたとき、逮捕されるのかと思った」と打ち明けたロマの避難者もいたという。
ウクライナ国内での「ロマ」の存在で忘れられないのは、1990年代初頭に起きたジョージア(かつてのグルジア)での内戦でウクライナに避難して以来30年、オデーサに住む女性。「ロマ」であることから身分証を持っていない。
今回の軍事侵攻で、国内では自国の軍による検問所が各地に設置されたため、自分が住む村から出ることすらできない。身分証がないために、貧困につながり、差別により平等な教育を受けられずに識字率が低い、それに伴って政治に対する不信感が募るなど「負の連鎖」が止まらない。
・「Platform On The Border 境界線上のプラットフォーム」小原一真さんサイトより
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