1980年代初頭、突如として音楽シーンに登場し、洗練された楽曲と圧倒的な演奏力で音楽シーンを席巻した、安全地帯。「ワインレッドの心」(1983)や「恋の予感」(1984)が名曲なのはもちろんだが、実はその魅力の神髄はアルバム曲、カップリング曲にある……? シンガーソングライター・音楽評論家の中将タカノリと、シンガーソングライター・TikTokerの橋本菜津美が初期の安全地帯について語ります。
【中将タカノリ(以下「中将」)】 安全地帯といえば「ワインレッドの心」や「恋の予感」みたいなヒットシングルが有名ですが、アルバムもすごく売れたんですよ。特に初期の「安全地帯Ⅱ」(1984)、「安全地帯III〜抱きしめたい」(1984)、「安全地帯Ⅳ」(1985)はすごい。
【橋本菜津美(以下「橋本」)】 きっと私、安全地帯はシングルしか知らないですね! どんな感じの曲があるんでしょうか?
【中将】 1980年代の安全地帯のサウンドの特徴であるニューウェーブっぽさが際立っていたり、ソロになってからの玉置浩二さんの魅力にも通じるようなバラードがあったり、「なんでこれがシングルにならない!?」って思うような名曲があったり……ほんといろいろあるんですが、ひとまず「安全地帯Ⅱ」収録曲の「眠れない隣人」から聴いてください。
【橋本】 どこかテクノっぽさも感じますね!
【中将】 1970年代後半から世界的にシンセサイザーのような電子楽器を使ったテクノが流行します。日本ではYMOなどが有名ですよね。そうしたテクノの影響が1980年代にはポップスやニューウェーブと呼ばれた当時のロックに浸透して、安全地帯のサウンドにも確実に影響を与えています。「眠れない隣人」はシンプルなサウンドだけど、それが一層ニューウェーブっぽくていい感じです。
【橋本】 そんな時代の流れがあったんですね。ちなみに安全地帯はどなたが作詞、作曲を手がけているんですか?
【中将】 「ワインレッドの心」、「恋の予感」の歌詞は井上陽水さんからの提供ですが、その他の大半の歌詞は作詞家の松井五郎さんが書いています。作曲はほとんどすべてが玉置さんですね。
【橋本】 この時代からずっと名曲を書き続けている玉置さん……天才的ですね!
【中将】 初期・安全地帯のアルバムを聴くと「こういうニュアンスが後のあの曲にもつながっているな……」と思うことがあります。
さて、次は少ししっとりとした曲です。同じく「安全地帯Ⅱ」から「…ふたり…」。「真夜中すぎの恋」のカップリング曲でもあります。
【橋本】 やっぱり歌がお上手ですよね。かっこいいし、色気も感じます。
【中将】 地声とファルセットの移行の仕方がすごく自然なんですよね。「『ワインレッドの心』みたいなねっとり情感のある歌い方だけじゃなくて、こういう歌い方もできるんだよ」ってさりげなく才能を見せつけられてる気がしちゃいますね。
「安全地帯Ⅱ」は1984年5月にリリースされ、オリコン・ウイークリーチャート2位、1984年度年間ランキング19位の大ヒットになりましたが、7か月後の1984年12月にリリースされた「安全地帯III〜抱きしめたい」も、ウイークリーランキング3位、1985年度年間ランキング3位というさらなる大ヒットになっています。「恋の予感」が収録されていたアルバムです。
【橋本】 たった7か月! ペースも早いしさらに売れているのがすごいですね。他の活動をしながら1枚のアルバムを作るだけでもものすごく負担が大きいと思いますが……。